「行ってないッス」
「まぁ試してみよう。ここで最後だから」
河村は越前の前に靴を置きました。
「履いてごらん、越前」
「はぁ・・・」
不二に言われ越前は深い溜息をついて靴に脚を入れると簡単に入ってしまいました。
越前がポケットからもう片方の靴を出したとき皆驚きましたが、手塚は相変わらず眉間にしわを寄せているだ
けでした。
「決まりだね。海堂、お連れして」
「はい」
海堂が越前に近づくと
「・・・・ヤダね」
「あぁ?」
「俺はここがいい」
そう言うと越前は後ずさりました。
「しょうがねぇ」
「うわっ!」
近づくと逃げてしまう越前に何を言っても無駄だと気づいた海堂は、越前を担ぎ上げました。
「にゃろう」
「ぐっ・・・おわっ!」
越前は海堂の腹に膝を入れ、怯んだ隙に手塚が脚をかけました。
「逃げるぞ」
「は!?」
理解し切れていない越前の手を引くと、手塚は家を飛び出していきました。
カツカツとガラスの靴が地面を叩く音が聞こえます。
2人はまだ走り続けていました。
「手塚さん、これからどうするんスか」
越前がチラリと見ると手塚は振り返らずに言いました。
「一緒に・・・・」
「え?」
風と靴の音で聞こえず聞き返すと、手塚は走るのをやめて越前の方を向いてもう1度言いました。
「一緒に暮らさないか」
「・・・・・は?」
突然言われた事に反応出来ずにいると手塚がいきなり越前を抱きしめました。
「手塚さん!?」
「愛してる・・・越前」
「っ!」
耳元で囁かれた言葉に越前はまた何も言えませんでした。
「・・・・返事はいい」
「っ・・・言わせて下さい」
そう言うと越前は顔を見られたくないのか手塚の背に腕を回し
「俺も・・・愛してます・・・ずっと好きでした」
と小さな声で言いました。
「ありがとう。すまなかったな、家では何もしてやれずに」
「そんなこと無かったッス。十分でした」
「いや、今度から俺も家事を手伝おう」
「うっす」
手塚が身体を離すと越前がそう言えば・・・と言いました。
「どうした」
「一緒に暮らすって・・・どこに?」
「隣村に俺たちが前住んでいた家がある。そこをやると不二に言われたからな」
「いつの話ッスか・・・それ」
「結構前だぞ、舞踏会の招待状が来たあたりだ」
(そのときからお見通しだったわけ・・・・)
あの人は何者だと今更想う越前でした。
「このままのペースだと今日の内に隣村には着けんな、油断せずに行くぞ」
手塚が歩き出そうとすると
「ちょっとまって」
「ん?」
ちゅっ
「先に言われたんで、仕返しって事で」
越前はそう言うと赤面しながら早足で先に行ってしまいました。
「・・・・(///////)」
手塚もまた顔を赤くしながら越前の後を追いました。
こうして2人は隣村の家に住みずっと幸せに暮らしたそうです。
愛してると言われたとき
とても嬉しかった
そして俺も愛してると言ったとき
少しだけ
微笑んでいる気がした
今度は俺の前で
ちゃんと微笑ってください
そうしたらもっと
気持ちが伝わるはずだから