〜闇守〜

暗闇に身を潜め依頼をこなす


闇守に感情はいらない


情は切れ味を鈍らせる


ただ闇と闇を紡ぐのみ


疑問には思わない


誰も名前を明かさずに


闇を守り続ける







夜道を2人の男が歩いていた
1人は松浦問屋の主人
もう1人はその息子だ
息子はまるで警戒するかのように周りをきょろきょろと見回している




ザリッ・・・




「っ!?」



前方のから聞こえてきた草履が砂を踏む音
2人は身構えるようにじっと暗闇を見つめる

闇からすっと姿を現したのは亜麻色の髪をした美しい顔立ちの少年

腰には刀がある



「こんばんは。松浦問屋主人、松浦秦八様。御子息様とお見受けいたします」



微笑みを浮かべているが強い殺気が感じられ息子は刀に手をかけた

すると少年から微笑みが消え、冷たく鋭い視線が2人を突き刺す



「私怨はありませんが依頼のため、あなた方には死んでいただかなければなりません」



それは一瞬の出来事
勝敗は言うまでもない
今や親子は血溜まりのなかに静かに身体を横たえていた



「・・・・」



死体の上に闇守と書かれた紙を一枚置き少年は無表情に闇へと姿を消した

























暗い暗い夜の闇

雪の舞う空の下で幼い少年が身を屈め泣いている
周りに降り積もる雪は鮮血色で少年の着物にもまたべったりと血が付いている



『・・・で・・・』



聞き取れず一歩近づく



『なんで・・・』



一歩一歩近づくいていくにつれ雪が足に重く纏わりつく



『なんで・・・たんだ』



雪が降り積もり隠れていた六人の死体が姿を現しそれから流れでた血が純白の雪を真っ赤に汚す
少年がこちらを睨みつけていることが何となく分かる

手が濡れている気がしてふと目をやった
手には刀が握られていて切っ先も着物も手もみな血で汚れていた



『なんでっみんなをっ』



その問に答えることはできなかった

























「っ・・・」



少年は目を開け、今いるのが雪の中ではなく自分の部屋だということに大きな溜め息をつき亜麻色の細い前髪をかきあげた
空が白んでいる、どうやら夜が明けたばかりのようだ

(らしくもない)

少年は思わず苦笑する
最近は夢すら見なくなっているが以前は毎夜のように見ていた初仕事の夜の悪夢
仕事の量が一段と増え疲れがたまっているからだろうか


ここは鶴屋という宿場

少年が働く闇守という組織はこの鶴屋を拠点に活動している
闇守とはその名が示す通り闇に紛れ暗殺を行う組織

だがそれでは政府などに目を付けられる
よって表向きは護衛を専門に請け負っているということになっているため暗殺以外にも護衛の依頼がよく来るのだ

少年はその中の暗殺依頼を多くとっていて腕がいいと最近評判になっていた
依頼内容は張り合っている問屋の主人だったり貿易の相手、医者など様々
誰がどんな恨みを持ち依頼してくるかはこちらには一切伝えられない


不意に少年の部屋に誰かの気配が近づいた



「夢人、起きているか」
「はい、依頼ですか?」
「あぁ」



やはりなと少年は小さく息を吐き出した
依頼の話以外で少年の部屋に近づくものはあまりいない

夢人は少年の名前だ
誰も少年の名前を知らなかったため、多くの人々が勝手に呼んでいる名前の読み方を少し変えて呼んでいた
夢人自身もこの名前が特別好きでも嫌いでもなくただ名前がないと不便だからという理由で使っている

部屋に入ってきたのは手塚という先輩
この仕事を勧めてくれたのも、なにも知らない夢人に仕事の諸々を指導してくれたのもこの人だ
腕は確かで以前は稽古を付けてもらっていたし、周りからの信頼は厚いため周りに馴染めない夢人は幾度か助けてもらうこともある



「今夜護衛の仕事が入っていた。俺とになっていたが」
「別にかまいません」
「そうか」



それが用事だったのか手塚は早々に部屋を出ていった

夢人が護衛の仕事に就くのは月に一回か二回
一回の依頼額が高い手塚や夢人に依頼をするくらいだ
今回の依頼主はよほどの富豪か政府のお偉方だろう

依頼の時間は今夜
それまではする事もなく何をしようかと考えていたが



「夢人、依頼入ってたぞ」
「あぁ」



今度は同期
どうやら暇な時間もないようだ
依頼は暗殺だろう
明るいうちはなにかと不便なのだがそうも言っていられない
護衛の時間が来てしまう前に早めに片づけるべく夢人は用事が多い今日にうんざりしつつ鶴屋を後にした







依頼された場所に行くとそこはなにもない空き地
(またか)
夢人は呆れたように今日何度目かの溜め息をつく
同期や先輩の妬みや嫉みが自分に向けられるのはよくあること
それが人を殺す腕だとしてもだ
こういった場所に呼び出されたのはこれで何度目になるのだろう



「出てこい。お前のように暇じゃないんだ」



気配を消していないせいでどこにいるのかは手に取るように分かったが相手が誰なのか一応確認しなければならない
確認した所で対処に何ら変わりはないのだが・・・



「・・・お前さえいなければ」
「お前か」



相手は先程依頼が入ったと連絡をしてきた同期
確かかなりの腕前だとだいぶ前に聞いたような気がした
こんな明るい時間から依頼が入るのはおかしいと思ったがやはり嘘だったようだ



「お前が闇守に入ったことで俺の存在は消えたも等しい!!全て・・・全てお前の責任だ!」
「そうだな」



他の闇守達から仕事を取っているのは事実だろう
だが好んで横取りしているわけではなく夢人のところ優先的に入ってくるのだ
冷めた物言いに怒りを増幅させた闇守の男は夢人に切りかかった
夢人はその刀を軽く流し峰で男の腹を突く
男は気を失いその場に倒れ込んだ



「好きで人を斬ってるんじゃない」



どれだけ腕を認められても、今までしてきたことが許されるわけ無い
それが結果正しいことだったとしても、あの事実が消えることはない
夢人は悲しげに呟くと空を見上げた











明け方の空の白い月
忘れ去られた存在のように
静かにそこに佇む
それはまるで
僕のように