シンデレラU
     



英二が家の中にはいると、越前は部屋の真ん中に座り込んでいました。

「おチビ願いを叶えてあげるにゃ!」

「は?」

英二が杖を一振りすると、越前の服が見たこともないような美しいドレスに、カボチャが馬車に

ネズミが白い馬になりました。

「これで舞踏会に行けるだろ?」

「何でこんなにレース付いてるんスか?」

「それの方が似合うと思ったから」

「しかもピンクッスか」

「かわいいぞーおチビー」

なでなでと頭を撫でられてカチンときましたが、越前はドレスが必要だったため黙りました。

「よく聞いとけ、魔法は12時で消えるからな。その前に城から出ること」

「了解ッス」

「それと・・・ほいっとな」

英二がもう一度杖を振ると越前の靴がガラスの靴に変わっていました。

「じゃあ、楽しんでこいよ!」

「ウィッス」

「行ってらっしゃーい」
英二に見送られて、越前はお城へと向かいました。



お城に着いた越前はパーティーの開かれているホールに行きました。

そして周囲の人たちはホールに入ってきた越前の美しさに目を奪われました。

すると奧のイスに座っていた王子が出てきて越前に手を差し伸べて言いました。

「美しい姫君、私と踊ってはくれないか」

「・・・・・・・・いいッスよ」

(本当はあの人を探しに来たんだけど・・・)

そう、越前は王子様と踊りたかったわけではなく手塚のことが心配で来たのでした。

手塚ほどの美人なら王子に見付かれば結婚という事態になりかねません。

そんなことなら自分が王子と踊ればいいと思ったのでした。


越前が王子の手を取ろうとすると

「俺と約束していた人だ、すまんな」

と、手塚が王子から越前を引き離しました。


呆然とする王子を尻目に手塚は手を引いてどんどん城の奧に行きました。


「なっ・・・何スか!?」

「ちょっとまて」

2人は少し開けた屋外に出ました。

そこは中庭のようなところで今は誰もいませんでした。

「どうしてお前がここにいるんだ」

止まると一言目に手塚は聞きました。

「人違いなんじゃない?」

「越前・・・」

しれっと言う越前に手塚はあきれました。すると

「・・・・・・・・あんたが・・・心配だったんだよ!」

向かい合っていた越前が顔をそらしましたが、手塚には赤面しているのが分かりました。

「越「あっ!」

声をかけようとしたとき越前は声を上げました。

「どうした」

「ダンス・・・再開されたんだ」

2人が出てきたので中断されていたようでしたがホールからはまた曲が流れていました。

「踊らないか」

「!?・・・・・・・・」

越前は何も言わずに手塚の手を取って踊り始めました。

手塚のリードは完璧で夢のような時間でした。


リゴ――――――・・・・ン


「ヤバッ!」

夢中になりすぎて時計を見るのを忘れ、あっという間に12時になっていたようです。

12時を告げる鐘が時を刻み続けます。


リゴ――――――・・・・ン


越前は踊りをやめて手塚から離れ走り出しました。

「越前!?」

手塚の声に振り返りそうになりながらも、越前は必死に前だけ見つめて走りました。

「ありがとうございました、手塚さん」

小さな声で言うと中庭を抜けました。



「姫、やはり戻って来・・・ぐはっ!」

王子に見付かって捕まりそうになりましたが、今度は突き飛ばしてやりました。

もちろん

「まだまだだね」

と捨てぜりふも忘れずに。


リゴ――――――・・・・ン


階段を駆け下りる途中躓いてガラスの靴を落としてしまいました。

しかし、戻る時間もありません、靴をそのままにして越前は近くの森に逃げ込みました。


リゴ――――――・・・・ン


最後の鐘の音で馬車もドレスも消えてしまいましたが、ガラスの靴だけは残っていました。

森に入った越前はそのガラスの靴を脱いで大切に持って帰りました。




魔法使いがくれたのは
    ドレスでも
カボチャの馬車でもなく
   ほんの小さな
   きっかけでした







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