なんてモヤモヤ 10
恋人はいません。それは嘘じゃない
好きな人はいるけれど、恋人って言うものは片方が好きになるだけで成り立つものじゃないらしいから
でも逆に好きだと言われたら、なんと答えたらいいのだろう
あなたのことは好きだけど、あなたのことは好きではない
そう言えばコタローに伝わるのだろうか?分かって、くれるのだろうか?
「あ、の・・・もの言うんは・・・一体どういった・・・」
なぜか震える声で問うとコタローは先ほどの大人びた雰囲気を変え質問に答えてくれた
「ボクはアラシヤマのことが大好きだよ。だからボクの恋人になって欲しいんだけど・・・
アラシヤマはボクのこと嫌い?」
「嫌いや、ないどす。せやけど恋人って・・・!」
「よかったぁ!あ、秘密は絶対に守るから安心して。どうしてこんなものが付いてるかは、今度教えてね」
恋人になることを了承したわけでもないのに会話終了。こちらの意見は言う暇がなかった
どうやら弟の「2人で話したかったこと」、と言うのはこのことだったようだ
姿形は全然似ていないあの人とコタローだけれど、中身の強引さはうり二つ
こんな状況だが呆れてしまった。確か・・・俺様と女王様、というんだったか
たぶんコタローは自分をからかっているのだろう。でなければ素性の知れぬ同性の年上にこんなことを言うはずがない
不意に髪を撫でていたコタローの手が耳に触れる。とたんびくりと身体が痙攣した
背筋を這い上がってきた知らない感覚に困惑していると、あの人の弟は新しいおもちゃを見つけた
子供のように嬉しそうな声で囁きかけてくる
「もしかして耳弱かったりする?」
「よ・・・よわ!?ひっ・・・コタローはん!なにしてはるんどすか・・・っ」
「フワフワしてるし、温かいし、もしかしてこれ本物だったりして」
もしかして、じゃなく本物だ!と白状してしまいたかったが、ゾクゾクとした感覚を押し殺すことで精一杯だ
発情期ではないのに身体を占め始めた熱と疼きは、どう考えてもそのときと酷似していた
「気持ちイイ?感度いいのは嬉しいけど・・・他の男に悪戯されないか心配かな」
執拗に耳をいじっていた手が離れたかと思ったら今度は顎を少しだけ上に持ち上げられる
隣に座って悪戯を仕掛けてきていたコタローはいつの間にかソファーに膝立ちになってこちらを見下ろしていた
晴れ渡った空のように青い瞳に映る自分の顔が泣きそうで、とても直視していられない
視界を遮るために目を閉じたのとコタローの唇が触れたのはほぼ同時だった
誰かとキスしたのは初めてのはずなのになぜか柔らかな感触には覚えがある
どうしてだろうと考える力はどんどん抜け落ちてもっと気持ちのいい方を追い求めてしまう
唇を合わせるだけでは物足りない
舌を伸ばしかけた時、背後で扉の開く音がした