なんてモヤモヤ 8




はぁ〜という特大のため息が、目の前にいる男から吐き出された
和やかなお昼時のはずなのに、どうして俺は研究所所長室に呼び出され
こんな重苦しい雰囲気の中自分で淹れた紅茶を飲んでいるのだろう

「グンマ、俺昼飯食いに行きたいんですケド」
「今朝コタローちゃんが言ってたんだけど・・・アラシヤマにお母さんの名字使ったって本当?」

グンマは自分の母親のことを「お母様」と呼んでいたから、すぐ俺の母親のことを言っているのだと分かった
『加野嵐山』という名は元カノに説明するべく以前俺がとりあえずつけてやったものだ
俺と同じ『青野』でも良かったのだが何となく気恥ずかしくて俺の母親の旧姓である『加野』にした

「しょうがねーだろ。ぱっと思い浮かんだのがそれしかなかったんだヨ」
「シンちゃんも加野は由緒正しい家柄だってこと知ってるでしょ?」

いつになく真剣な面持ちで語るグンマだったが、俺はそれほど心配はしていなかった
フルネームを名乗ったのは元彼女とコタローの2回だ
コタローが生まれたのは母さんが病気で亡くなるほんの少し前だから、俺の母親を見たことはない
せいぜい名前を知っている程度だ。加えて母の親戚関係は俺もよく分かっていない
親父から聞いたことだからどこまでが真実かは分からないが、大恋愛の末、加野の家を捨てて
駆け落ち同然に青野に嫁いだと言う
未だ青野と加野の関係は良好ではないため、そう簡単に加野の内情を調べる事はできないはず
確かにコタローはアラシヤマに興味を持ったようだったがそれほどまで警戒する必要があるだろうか?

「もう一つ、コタローちゃんを家に泊めるのは正直言って危険すぎると思う。アラシヤマの正体がばれたら困るのはシンちゃん達だけじゃないんだよ?」
「あぁ・・・・それは分かってる」

アラシヤマが身分を証明できないと分かれば大事になるのは避けられない
きっと被害が不二さん達にも及ぶだろう

「コタローちゃんに言いづらいんだったら、しばらくの間アラシヤマはボクが預かってあげる」

可愛い弟を蔑ろにもできないため、いいアイディアだと賛成しかけて・・・・やめた
グンマの目が好奇心できらきらしている。預けたら勉強と称して研究に付き合わされる事は明白だった

「猫じゃねーんだから、そう簡単に預けられないだろ」
「あ!もし預かってる間懐いたらアラシヤマボクにちょうだい」
「そんな簡単にやれるか!つか、なに預ける前提で話進めてんだよ!?」
「だってアラシヤマは猫でしょ」
「いや、猫だけど。確かに猫だけど。分かったよ・・・コタローには理由つけて家に帰るように言っておく。そんでいいんだろ?」
「うん!頑張ってね、ごしゅじんさま〜」

最初からそれを言わせることが目的だったようにグンマはニコニコと笑っていた
オマエにご主人様って言われても微塵も嬉しくねーんだけど






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