なんてヤバイ! 3




「どうぞ。今日はハーブティーにしてみました」
「おおきに。あ、これシンタローはんから」
「わざわざすみません。わぁ、アップルパイですか!僕大好物なんです」
切ってきますね、と言い残すと不二はキッチンへ行ってしまった

残されたのはアラシヤマと先ほどから俯いたまま一度も顔を上げない菊丸だけ

正直言って気まずい

あの後放心状態の菊丸を支えながらリビングに通してくれた不二
今はもうちゃんと服を着ているがさっきの格好といい、あの時言っていた『恋人』という言葉といい
一体何だったのだろう?
アラシヤマが悶々と一人で悩んでいる一方で、菊丸海より深く落ち込んでいた
ほぼ半裸の不二、恋人という爆弾発言
二人がそこまで行っている仲だと大声で公表したようなモノだ
恋人同士だと言うことを隠しているつもりはないが世間一般的にやはり認められない関係
だから誰にも言わないでおこうと二人で決めた
誰にも知られず、祝福されないのは少しだけ寂しかったけれど、それが俺たちの幸せのためなら
何だって我慢できる

「菊丸はんが『好き』言う気持ちを知ってはったんは・・・恋人がいたから・・・どすか?」

気まずそうに沈黙していたアラシヤマが口を開いた
以前聞かれた『好き』の種類。菊丸も最初から知っていたわけではない
不二を好きになり、それを伝えて初めて教えてもらったものだ

「はい・・・俺は昔から、それこそ初めてあった時から不二のことが大好きでした」
「せやったら・・・わてと同じやね」
「え・・・?」
「今考えてみれば、わてもあん人、シンタローはんがここに引っ越してきてからすぐ好きになった気がするんよ」

顔を上げると頬を真っ赤に染めたアラシヤマが恥ずかしそうに呟いていた
野良猫だったアラシヤマはマンション内の家を長い間転々として、生きながらえてきたのだ
同じ部屋、同じ家庭に居座り続けることは絶対にしない
人は生き物を飼ったとしても飽きたらすぐに捨てる
同じ境遇の野良猫は自分が生きることに必死すぎて、相手を傷つけることさえ厭わない
ならば少しでも信用できる人間の家を巡り歩いていた方が簡単に命をつなぎ止められる
そんな生活を続けいくつもの季節が過ぎ去ったある日、あの人がこのマンションに引っ越してきたのだ

「最近ようやく気付いたんどす・・・わてはシンタローはんが大好きやって」

全部不二と菊丸のおかげだ、と言われ心に光が差した
誰にも理解されなくていいなんて、本当はそんなことない。誰でもいいから認めて欲しかった
俺たちは間違ってないって、言って欲しかったんだ






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