なんてモヤモヤ 7
耳が戻って以来検診という名目で週に1回不二家にお茶を飲みに行っている
あれほど良くなかった体調も何とか持ち直したので、大丈夫と断ったのだが
『小さな変化も見逃したくない、何かあってからでは遅いんだ』
という不二とあの人の強い希望があったからだ
菊丸も家にずっといるよりは外に出て話をした方が精神的にもいいと言うことだったので
二つ返事で了承した
あの人と一度家に帰るというコタローを送り出しあらかたの家事を済ませてから家を出る
昨日コタローのために焼いていたアップルパイを少し分けてもらえたため
今日のお茶菓子はアップルパイだ。確か不二はリンゴが好きだと言っていたしハズレはないだろう
菊丸は甘い物が大好きであの人がたまに作ってくれるお菓子を持って行くと大喜びする
不二も甘い物は苦手だと言っているがあの人の作るお菓子は「美味しいですね」と食べてくれるのだ
それが嬉しくて、ちょっと自慢だった
絶品のアップルパイを片手に意気揚々とチャイムを押したのだが
ピンポーン・・・・・
出てこない
ピンポーン・・・・
やっぱり出てこない
どうしたのだろう?もし急に用事ができて出掛けるとなれば菊丸が連絡をくれると思うのだが
もう1度押そうと指を伸ばした途端家の中から何かが倒れるような大きな音がした
菊丸が倒れているかもしれないと思ったがあまりの衝撃で動けずにいるとガチャリと扉が開く
「い、いらっしゃい!すみません、出てくるの遅れちゃって」
「いえ、別にかまいまへんけど・・・大丈夫どすか?」
早起きしてわざわざセットしていると言っていた外ハネの髪は不自然な方向にはね
服も慌てて整えたように乱れている
その上なにかが倒れるような大きな物音と来れば心配しないわけにもいかない
「いえ!はい!もう本当に!超元気ですから!!」
「てて・・・酷いよ英二、なにも恋人を張り倒すこと無いんじゃな・・・・・い」
背が高くて良かった、とずっと思っていた。あの人は192cmで自分は185cm
他に比べれば自分たちはずいぶん身長が高いのだろうけれど、あの人の隣にいたから気にもならない
でも今初めて自分の背の高さを呪う
玄関に立ちはだかる菊丸の後ろに立つ不二の姿がそれはもうばっちり見えてしまったのだ
菊丸と同じく乱れた髪と、前が全開になっているワイシャツ
どんな服でも綺麗に着こなし隙のない獣医兼管理人不二周助はどこにもいなかった
しかも、『恋人』とか言わなかったか?
この世の終わりのような顔をしている菊丸、場違いな程穏やかな笑みを浮かべた不二
もう為す術なく立ち尽くすしかない