なんてモヤモヤ 5




なぜかあの人の弟だという少年、青野小太郎にめちゃくちゃ懐かれてしまいました

「おにーさんの実家どこにあるか聞いていい?」
「えーと、京都?どす」

なんで疑問系?と言う質問を苦笑で押し殺してあの人が淹れてくれた紅茶をすする
事情を知っている人以外と話をするのは初めてのことで。いつ話の内容に矛盾が生じ
ボロが出るか分からない
ならば不慣れな愛想笑いでごまかし通すしか方法がない、と言うかそれしか見つからなかった
あの人もその作戦に乗ってくれるようで困った時はたびたび助け船を出してくれる程だ

「おにーさん歳はいくつ?」
「歳どすか!?・・・・・確か3つ・・・・」
「3歳?」
「だぁぁぁぁ!!そいつは俺と同い年で28だっ!」
「へー・・・」

きゃらきゃらと笑うコタローにばれないよう二人はため息をついた
あの人が言った28歳、というのはあながち間違いじゃない
猫の3歳は人で言うとその辺りの年齢になる。不二からでも聞いたのだろうか?

「お兄ちゃん、アップルパイそろそろ時間じゃない?」
「だな。ちょっと待ってろ、今持ってくる」

コタローのリクエストであの人は急遽アップルパイを焼くことになった
最愛の弟のためならば、といそいそと準備する後ろ姿はとても楽しそうで
あの人の新たな一面を見た気がした

「おにーさん、最後に1つだけ質問していい?」
「アラシヤマでええよ。わてが答えられることならなんでも聞いとくれやす」
「じゃあ、アラシヤマさん!」

これでようやく解放されると思ったのだが・・・

「恋人って・・・いる?」
「こここ恋人どすか!?」
「やっぱりいるよね・・・アラシヤマさん、美人だから・・・」

はぁ、とコタローは酷く落胆したように肩を落とした
この子を悲しませたら、きっとあの人も悲しむ。それだけは絶対に嫌だ
あの人のことは好きだけど、気持ちを伝えたわけではないからいないと言っても嘘にはならないだろう

「おらへんよ。それに美人は女子はんに使う言葉どすえ」

あの人とは全く違う金糸のような細くて柔らかい髪を撫でながら言うと
曇っていたコタローの表情がみるみる明るくなっていく

「本当!?じゃあボクにもチャンスがあるんだね!」

それはどういう意味だと聞く前に兄の呼ぶ声に応えコタローはキッチンへと行ってしまった






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