なんてモヤモヤ 3




「はぁ・・・・」

朝からため息が止まらない。いや、正確に言うとこの家にいてもいいと言われた日から
もうため息が癖になっている
このまま人でいる覚悟はもうできたのに、なぜか戻ってきた耳は消えなかった
不二に聞いても菊丸に聞いても分からないと首を横に振るばかりで
一時期このまま元の姿に戻るのでは?と期待と不安の入り交じった微妙な気持ちにもなったが
それすら杞憂に終わり不気味なくらい何の変化もない
軽視していたつもりはないが、自分が感染したモノの得体の知れなさに今更恐怖を感じた

(こないな事言うたら、シンタローはん呆れるんやろなぁ)

自分の身体のことだろ!?と鋭い突っ込みを入れる姿が容易に想像できてクスリと笑いがこぼれる
今まで感じていた好意とはまた別の「好き」を自覚するようになって、あの人にどう接していいのか分からなくなってしまった
他人をそういう意味で「好き」になったことがなかったため迷っているのだと思う
できるだけ表に出さないようにはしているが、鋭いあの人のことだ
すでに迷いに気付いて不審に思っているかもしれない
言いたいことは素直に口にしろと言われたものの「貴方が好きです」なんて
そう簡単に言えるモノではない
飼い主に恋心を抱く飼い猫なんて重いに決まっている

ならばせめてあの人の友達になろうと考えたのだが・・・そもそも友達がいなかった
友達の作り方も知らないし、何を話せばいいか、どれくらいの距離で付き合っていくべきなのかすら知らない
仲の良い二人、で真っ先に浮かんでくるのは不二と菊丸だ
あの二人はお互いを理解し合いとても素敵な絆を築いているように見える
かと言って彼らと同じような関係になりたい、とは思わない
あれくらい仲良くなれればいいが、彼らには彼らの、自分たちには自分たちのスタイルがある
お互いが心地よい距離を見つけるにはまだまだ時間がかかりそうだ
別れという名の終わりがいつ来るか分からない不安はあるが
性急に事を進めて嫌われてしまっては元も子もない
ならば時間をかけて作り上げていくのもいいだろう
絶対に嫌われないという自信が付くまでどれほどの時がかかるか分からないけれど

「っと、そろそろ出な。シンタローはん来てまう」

エプロンをダイニングテーブルの上に置いて菊丸にもらったキャスケットを手に取る
家の外にいる時は常に帽子をかぶりしっぽを隠さなければならない
菊丸はきっと自分以上の不便さを感じているはずなのに、どうしてあんなにも明るく幸せそうなのだろう?
今度聞いてみようと決め家を出た
大事件が起こるとも知らずに






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