なんてモヤモヤ 1
アラシヤマの家出騒動が一段落してから1週間
アイツもずいぶんと砕けてきてちゃんと意思表示をするようになった
遠慮するのは元々の性格なのか治ってないけどナ
「アラシヤマー行くぞー」
「ちょお待っとくれやす!洗濯機回していかな」
玄関で靴を履きながら呼びかけると洗面所の方から心地よい京都訛りが帰ってくる
最近つくづく思うのだが・・・・
ぱたぱたと慌ただしく動く姿とか、俺がプレゼントしたエプロンをちゃんと使ってくれていることとか
なんかかわい・・って!
「・・・何考えてんだ、俺」
「なんや言わはりました?」
「なんでもねから早くしろよナ。遅刻したらオメーのせいだかんな」
先ほど頭をよぎった言葉を振り払うため茶化すような台詞を言うが
実際の所出社時間までまだまだ余裕がある
人混みに慣れるための練習、と称してアラシヤマは駅まで俺を送り迎えするようになった
送り迎えと言っても一緒に駅からこのマンションまで歩いてくるだけのことなのだが
アイツはそれがとても気に入ったらしく飽きもせずに毎日繰り返している
ピ、と言う機会音と共に洗濯機が動き出す
皿洗いに始まり掃除、洗濯等々を順調に覚えていったアラシヤマ
今では簡単な料理も作れるようになった
なんかホント、主夫じみてきてるよな
「お待たせしました」
エプロンを外して駆け寄ってくるアラシヤマの手には深い藍色をしたキャスケットが握られている
あの日戻ってきた猫の耳は未だに消えず外に出る時は必ず帽子をかぶらなくてはならない
今のところ退化が進んでいる(?)様子はないが、またいつ何時症状が現れるかは不明
このまま元の姿に戻ってしまうのか、それとも耳が消えて人として生きていけるのか
アラシヤマは戻りたいと・・・思っているのだろうか?
「シンタローはん?もう出な間に合いまへんえ」
「あ・・・あぁ。じゃ行くか」
玄関を出て鍵を閉めても一度浮かんだ懸念はそう簡単に消えてはくれなかった
どちらが幸せなのだろう
アイツにとって幸せなのは元に戻ること・・・だろう
でも俺にとって幸せなのは・・・・・・
「エゴ・・・・だよナ」
口に出ていたのかアラシヤマが首を傾げる
何時もの笑顔でごまかしても、モヤモヤは晴れなかった