なんて臆病 11




家に帰ってすぐ、あの人はどこかに電話をかけ始めた
今日は平日、そろそろ家を出ないと会社に間に合わない時間だ

「シンタローはん、わて一人でも平気やさかい・・・」
「いいから、お前ちょっと黙ってろ。あ?なんでもねーよ、とにかく出社遅れるから
親父とキンタローには適当に言っておいてくれ。じゃな」

そう言うと彼は一方的に電話を切ってしまった
切る直前に聞こえてきた少し高めの声はたぶんグンマのものだ
パキンとケータイのフリップを閉じると彼と向かい合うように正座させられる
目を合わせるのも辛かったがここで逃げては何の解決にもならない
耳が戻ってきた今、いつ身体も元に戻るか分からないのだから、彼と過ごせる時を大切にしたかった

「まず謝らせてくれ。具合悪いの気付かなかったことと、昨日いきなり女連れてきたこと。
最近帰りが遅かったのもあいつに会ってたからだ。」
「知っとりました・・・わてが手を引っ掻いた女子はんでっしゃろ?」
「あぁ、よく覚えてんな。安心しろ、もう帰り遅くならねーし、彼女も連れてこねーからさ」
「遠慮・・・してはるんどすか・・・?」
「ちげーよ、別れたんだ。オマエが出ていった後すぐに」

告げられた言葉に目を見開いた。どうしてと聞く前に彼に制止されてしまう

「そこら辺は聞くな、俺も何で別れたのかよく分かんねーんだから。とにかくっ!!その・・・ごめん・・・ナ」

ばつが悪そうに頭を掻きむしりながら彼が言葉を発したと同時につぅ・・・と何かが頬を伝った

「オマっ!何で泣いてんだよ!?どっか具合悪いのか!?」
「違っ・・・分からへんけど・・・」

流れ出す涙を必死に止めようとするも涙腺が壊れたようで後から後からぼろぼろとこぼれてくる

「そういや、初めて見た。オマエの泣き顔」
「あんま・・・見んといて・・・ください。恥ずかし・・・」

みっともない姿を見せたくなくて顔を逸らすといきなり彼に抱きしめられた
たぶん顔を見ないようにするためだろう

「気になったこととか、嫌なことあるなら全部言えよ」
「せ・・やけど」
「俺はオマエのこと邪魔だと思わねーし。どっちかっつーと迷惑かけて欲しい」

それが生きていくって事だろ?と彼はこともなげに言う

「オマエの家はここで、オマエの居場所は俺の隣。そんでいいだろ」
「へぇ・・・わてなんかにはもったいないくらいどす」
「バーカ。言ってろ」

久しぶりに感じた彼の体温はやはり何よりも安心できて、また涙がにじむ
もしかして、これが菊丸の言っていた「好き」って気持ちなんじゃないだろうか?






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