なんて臆病 10




朝一で行くのはどうかと思ったが、じっと待っているだけなんて俺の性に合わない
それに今日は平日だ、獣医とその助手の手を煩わせては彼らだけではなく
助けを求めている動物たちにも迷惑をかけてしまうことになる

・・・なんてもっともらしい理由をつけているのはなぜだろう
別に「心配だから」で済む話だ
昨夜電話をかけた時、不二から聞いたアラシヤマの体調不良
どうして言ってくれなかったのだろう
具合が悪いと分かっていたならば、彼女は家に連れてこなかったし

「さて、行くか」

煮え切らない思いを抱えたまま、軽く身なりを整えて自室を出る
朝早いせいかすれ違う人はおらず車の音しか聞こえない
清々しいはずの朝が味気ないのはきっと風変わりな居候がいなかったからだ
エレベーターで不二の部屋がある階層まで降り、ドアの前に立つ
インターフォンを押して真っ先に出てきたのはアイツ・・・・ではなくて
困ったように眉間に皺を寄せた菊丸だった
なんでもアラシヤマの身に何かが起こったらしい
慌てた俺が通されたリビングで最初に目にしたものは、なんと黒い猫耳をつけたアラシヤマの姿だった

「いや、それはないだろ・・・」
「シンタローはん・・・」
「オマエ何つけてんだよ」

近寄って引っ張ってみたのだが・・・・取れなかった。ふざけてつけたものではなく、本物らしい
落ち込んだ様子のアラシヤマを菊丸に任せて俺は不二から話を聞くこととなった
激しい頭痛と共に耳が戻ったのはなんと今朝の話。

「HSを進化とするならば、今彼に起こっている現象は確実に退化と言えるでしょう」
「そう・・・なんですか?」
「ええ。本来生き物の進化というは何万年もかけて行われることです。

その進化と退化がこれほどまでに短いスパンで起こるのは危険すぎます」
最悪、命を失ってしまう危険性も・・・・そう言われてからようやく気がついた
感染してから何の症状もなかったせいで忘れていたが、HSがアラシヤマの身体にどのような
影響を与えているのかまだ分からないのだ
一番気に懸けてやらなければ行けないのは俺だったのに

「どうして退化したか、原因は不明です。すみませんお力になれなくて」
「いえ、ありがとうございました。ちょっと話し聞いてみます」
「何があったかは聞きません。ですが・・・・どうか大切にしてあげてください」

なにを、と具体的に言われたわけではないけれど
不二が俺に何を言いたいのか分かったような気がした






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