なんて臆病 9
「朝」って確かとても清々しくてもっときらきら輝いていた気がする
だが今の自分にとっては憂鬱以外のなんでもない
どうしてこんな事になっているんだっけ・・・?
寝起きではっきりしない頭をフル回転させると、昨日起こったことが苦々しい気持ちと共によみがえってくる
あの人に恋人がいることは知っていた
ちらりとしか見ていないが猫だった時に引っ掻いた女性であろう
帰ってこないはずのあの人が突然その恋人を連れて家に帰ってきた時は本当に驚いたが
それと同時にどろどろとしたものが胸の中に溢れ出た
これはたぶん「嫉妬」と言う感情
彼が自分以外の人を見ているのがどうしても嫌で、悲しかった
だから怖くなって逃げ出したのだ
人と同等の感情を抱えてしまったことに
未だ慣れないこの身体に引き摺られて心まで人に近づいていることに
「・・・・・人でも・・・・・・ないくせに」
ため息と共に吐き出した自分の言葉に傷ついた
人でもない猫でもない、ならば自分は一体何なのだろう
あの人と話したい一心で人になることを望み、すでにその願いは叶えられた
ならば、もう人である必要などどこにもない
側にいたいというのは自分の願望であって、あの人は望んでいないのでは?
やっかいなことに「嫉妬」はまだ自分の中で燻っていて、余計な不安を煽り立てる
あの人は大丈夫だと言っていた
それが何に対しての大丈夫なのかは分からないが、得体の知れない自分を受け入れてくれたのは間違いなく彼だ
同情だろうとなんだろうとかまわないからもう少しだけ側に行きたい、なんて願ったのがそもそもの間違いだった
だから罰として今自分は感じたこともない大きな悲しみを味わっているのだろう
途端今まで感じたことのないくらい激しい痛みが頭を襲った
一瞬元の姿に戻るのでは?とも考えたがあれは発熱と身体の軋みが伴ったはず
しばらくすると激しい痛みがだんだんと遠ざかり荒く息をつく
弱り目に祟り目とはこのことだ
あの人が迎えに来るならば暗い顔はしていられない、と長い前髪を掻き上げると指先に何かが触れた
フワフワとしたなじみ深い手触りは紛れもなく・・・
「ははっ・・・・耳・・・・戻っとる」
消えたはずの己の一部が、激しい頭痛と共になぜか戻ってきていた
戻りたい、戻れるかも知れない、戻ってしまう
どちらなのだろう。戻りたいのか、戻りたくないのか