なんて臆病 8




一宿一飯のお礼、と言うわけでもないが何もしないのは居心地が悪いから、と言うと
夕飯の片付けを任せてくれた
これならば危険も少ないし、慣れているから失敗もないだろう

(シンタローはん怒っとるやろか)

あの場にいるのが辛すぎて思わず勢いで飛び出してきてしまったが
外に出て初めて行く場所がないことに気がついた
グンマ博士のいる研究所には彼と一緒でなければ入れないし
人があふれかえる商店街へ向かう気にもなれない
猫だったら他の家に上がり込むのもたやすいことだったが今行けば不法侵入になる
途方に暮れてマンションの前のベンチに座っていたところ不二と菊丸に出会ったのだ
もし彼らに見つけて貰えなかったら不審者に間違われ捕まっていたかもしれない

(もしかして・・・いなくなって清々したとか言うて喜んではるかな・・・?)

それはそれで立ち直れないが・・・・
考えれば考える程深みにはまっていくばかり
これではいけないと皿洗いに意識を戻すと玄関で誰かに電話をかけていた不二が戻ってきた

「アラシヤマさん、シンタローさんから電話が入りました」
「そう・・・・・・・どすか」

電話をしてきたと言うことはもう許してくれたのだろうか
それともまだ怒っているのだろうか
彼の制止を振り切って勢いだけで飛び出した愚かな自分を

「今から迎えに行くとおっしゃっていました」
「い、今からどすか!?それは・・・ちょっと・・・」

気まずい。非常に気まずい。もうぶっちゃけ今晩は会いたくない
顔を見た瞬間また逃げ出してしまいそうだ
それに今彼の部屋には彼女が来ているわけで・・・・

「そういうと思ったので体調が悪いようだと言って外泊許可もらいましたよ」

その一言でほっと息を吐き出す
とりあえず一晩の時間を貰えたようだ
何があったかは知らないがあまり心配させない方がいい。としっかりと釘を刺され
不二は客間へと消えていった

そうだ考えなければ
菊丸が言っていた『好き』の違いを
今後どうやって向き合って生きていくかを
心配させてしまったあの人にどんな風に謝るかを
手元の食器がカチャリと音を立てる
人間関係も割れやすいものだと痛感した






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