なんて臆病 4
あの人のことが気になりだしたのは、この部屋に訪れるようになってからすぐのことだ
自分のことをただの野良猫ではなく話し相手として接してくれることが心地よくて
週に2〜3回だった通いはいつの間にか毎晩に変わっていた
でもなぜかその日から何かが軋む音がするようになる
そして軋みをはっきりと自覚したのはあの人が彼女らしき人間を連れてきた日から
あの人と同じ言葉を話し、同じ時を生き、同じ世界を見ていることがとてもうらやましくて
自分だってあの人に触れたいのに、自分だってあの人と言葉を交わしてみたいのに
野良猫にとって贅沢すぎる望みだった
だが何の因果かその願いは叶い、望みの通りあの人の一番近くにいる
同じ言葉で一番言いたかったお礼も言えたのに満たされない
まだ何かが欠けているような気さえした
あの人の元へ彼女からの伝言が来てからというもの小さかった軋みは次第に大きくなって
小さな亀裂を生んだ
そこでようやく気づく。軋んでいたのは心だったと言うことに
一気に話し終えてからはっと息を吐いた
全く気づかなかったがいつの間にかいろいろ溜め込んでいたらしい
それまで黙って話を聞いてくれていた菊丸が初めて口を開いて不思議なことを呟いた
「それは『好き』って言うんです」
「好き?そりゃわてはシンタローはんのこと大好きどすえ?」
「はい、でもまた違った『好き』なんです」
『好き』にはいろいろな種類があると菊丸は微笑んだ
浮かべた笑みは彼の主である不二が浮かべるものによく似ていて少しだけおかしかった
それにしても困ったことになったものだ
『好き』の種類について博識なグンマは教えてくれなかった
つまり自分で見つけなければならないと言うこと
「わてなんかが・・・見つけられるんやろか・・・」
「見つけられますよ。俺が保証します」
菊丸がとん、と自分の胸を叩くと同時にインターフォンがなる。噂をすれば影、不二周助だった
「こんにちはアラシヤマさん。うちの猫がお邪魔してませんか?」
「げっ不二!?わざわざ迎えに来なくても・・・」
「英二がおしゃべりに夢中になって忘れちゃってるんじゃないかと思ってね。
それより『げっ』ってどういう意味かな?」
「お、俺そんにゃこと言ったっけ−?」
「ふーん。そういうこと言うなら後でたっぷり聞いてあげるよ・・・・」
不二が耳元で何かを囁くとあれだけ騒いでいた菊丸が一瞬で沈黙する
これもまた一つの関係なのだろうか、なんて自分たちよりもずっと近くにいる二人をとても眩しく感じた
++++++++後書き++++++++
角でぶつかり進みます
しりもちついて続きます
ようやく相談が終わりました
解決になったのかどうかわかりませんが;;;;
でもきっと話したことによって少しはすっきりしたはず
(突撃隣の)次回予告
あの人に迫ってみました
あれ、なんだか匂いがおかしい