なんて難解




はい、じゃあこれを耳に当てて〜と間延びした声とともに差し出されたのは
たぶん人間が音楽を聴くために作った物。ヘッドホン?とかいった気がする

「これ?」
「そうそう!今開発中の人語学習装置なんだ〜。被検体探してたんだよね」

ヘッドホンの脇に着いたひねりをしきりに調節しながら博士は答える
開発中だの、被検体だの、意味はよく分からないが不吉な単語だ
だがこれもあの人のため。意思の疎通を図れなければ自分が人になった意味がないのだから
助けてもらったお礼を言いたい。なによりもっと滑らかにあの人と言葉を交わして笑ってみたい
コレは絶対本人には言えないことなのだが、あの人の笑う顔が好きだった
悪戯を仕掛けてくるときの意地悪な笑みも、悲しげに微笑んでいるときも、満面の笑顔も
彼の全てが自分を引きつけてやまないのだ
その顔を今なら間近で見ることができる。幸い人となった自分の身長は彼と余り変わらない
ならばそれを利用しない手はないだろう。些か不謹慎かとも思うがこの際目を瞑る事にする

「はい、調整完了!それじゃぁ張り切っていってみよー!」

ノリノリの博士に一抹の不安を感じたのだが・・・それは現実の物となり
数時間にわたり意味不明の言葉を大音量で耳にたたき込まれていった
精も根も尽き果てそうになった瞬間、あの人の匂いが近づいてくる

「よ!やっと時間が空いたから来た。どうだ調子は?」
「シ・・・シンタローはん!!!」

数時間ぶりに見れた彼の姿に安堵しヘッドホンを放り投げ衝動のままに抱きつく
もう嫌だ、頭が痛い。今自分が聞いていたのはきっと宇宙語なのだ
現にシンタローはあんな言葉で話したりしていない

「あー!!ダメだよアラシヤマ、ちゃんとコレ聞かなきゃ」
「いや!それうちゅうごや!はかせもつこてへんやない」
「んだこりゃ!?オマッアラシヤマに何語教えたんだよ!」
「失礼な!嵐山なんだから京都の舞妓言葉使った方がシンちゃんも嬉しいでしょ!!」
「嬉しくねぇぇぇぇ!!!俺は日本語を教えろつっただけで訛り取り入れろとは言ってねぇだろ!」
「訛りは今流行なんだよ!?それに名前が嵐山なのに標準語で話したら怪しまれるもん!」

ヒートアップする兄弟喧嘩にアラシヤマは為す術なくこっそりとため息をついた
あの人が会いに来てくれたのはとても嬉しいことなのだが・・・
喧嘩をして全然かまってくれないのは予想外だった
こんな事ならば早く言葉を覚えて家でたくさん言葉を交わした方がいい
午後からは『かんじ』を覚えなければならないのだ
気を取り直してヘッドホンを拾い脇に着いたスイッチを押すと頭の中にまたおかしな言葉が流れ始める
彼のお昼休みが終わるまで残り何分あるのだろうと、別のことを考えながら
喧嘩する二人をぼんやりと眺めていた






++++++++後書き++++++++
調子に乗って進みます
乗りに乗って続きます

人語学習装置は宇宙人用です
グンちゃんが趣味で作りました
仕事はしますが好きなこと(開発)に夢中です

(懲りずに)次回予告
ようやくお話しできる!
初めてーのーちゅうー




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