オリジナル 日坂 緑芽(ひさか りょくが)
                                                         雪名 美兎(ゆきな みう)


Sun Trick +1+


ある、夏の暑い日

俺は見た

不二が同じ3年6組の雪名美兎を抱きしめている所を


その日、不二は職員室に呼ばれていて時間が掛かりそうだからと言われて、俺は一人で部室に向かった。
少し待ってみたけれど、全然来る気配もなくて先に走っていたら不二が部室に向かっているのが見えた。
不二!って声を掛けようとした時だった、動いていたはずの足が止まった。
周りの音も聞こえなくなったはずなのにセミの声だけは、やけにうるさかった。





あれから一週間、英二は不二と全く口をきいていなかった。
あの後不二にいくら話しかけられても英二はまともに取り合わなかった。
そうしている内に、結局一週間という時間がただ無駄に過ぎてしまっていた。

「ねぇ、菊丸君」

一週間前の出来事を思い出していると、英二の前にいきなり美兎が現れて話しかけてきた。
正直話したくもなかったがクラスに不二とケンカしていると何となく感づかれたくなくて
どーしたの?と笑顔で聞いた。
ちゃんと笑えていたか自信はなかったけれど。
今、不二が席を外していてくれていて本当に良かった。

「あのさ、あの日のことなんだけど・・・」

美兎は言いづらそうに目を伏せて小さな声で言った。
その声は震えていて、今にも泣きそうな声だった。
何でこの子が泣きそうなんだろう・・・
英二は不思議だった、泣きたいのはこっちなのに。

「あの日?なんのこと?それよりほら不二が帰ってきたよ」

当事者から話をされるのはかなりきつくて、何とか話をそらすために
不二の名前を出して美兎の視線を自分から外させて英二は外を見た。
目的はなかった。いや、不二と美兎が話している所を見たくないという目的はあったが。
それをじっと見ていた不二の前の席の日坂緑芽がいきなりこっちを見て

「あんたらいい加減にしたら?」

こんな事を言った

(俺は別に何もしてないし)

英二はずっとこう考えていた。
結局不二も英二も日坂の問いに答えることはなかった。
そしてまた頭にも入らないのに授業が始まる。



「教科書36ページをやっておくように」

チャイムと宿題を告げる教師の声で英二はいつの間にか授業が終わっていたことを知った。
次は楽しい昼休み、皆思い思いの人と食事を囲んでいたが英二は全く乗り気にはなれなかった。

(1人で食べてもつまんないし)

と思いつつも癖で脚は屋上に向かっていた。




屋上、貯水槽の裏
英二はここで不二とお昼を食べることを毎日楽しみにしていた。
真夏の屋上は暑いと思われがちだが、水をためてある貯水槽の裏はけっこう涼しいのだ。
来たはいいものの、とても物を食べるという気にはなれなくてゆっくりと真っ青な空を見上げた。
雲一つ無く澄み切った空だった。

(もう・・・ヤダな)

いいかげん不二と話せないことは英二にとっても苦痛になっていた。
しかし、自分から話しかけても無視してしまった不二は答えてくれるだろうか?

「あーもう!」

ごちゃごちゃと考えている内にだんだんまぶたが重くなってきていた。
この頃はこのことばかり考えていてろくに寝ていなかったからだろう。

(ま、いいかにゃ・・・)

さぼっても後でノートを他の人に見せて貰えばいい。
ここで不二の名前が出てこないことに本気で悲しくなった。
あれ以来、美兎と不二が会話している所を見るだけで切られるように痛かった。

(・・・うるさい)

まだまだ鳴き続けているセミの声にうんざりしながらも英二は眠りに落ちていった。







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