
『ねぇ、こんなところで寝たら風邪引くよ?』
『大丈夫だって!不二も寝っ転がってみれば?気持ちいいよ〜』
『そうなの?英二が言うならやってみようかな』
「こんなところで寝たら風邪引くよ?」
どこかで聞いたセリフだった。
太陽のまぶしさに目を細めて声の主を見た。
「何しに来たんだよ」
「何しに来たんだよは酷いんじゃない?せっかく起こしてあげたのに」
「別に頼んだ覚えはないんだけど」
目の前に立ち英二を起こしたはの今一番会いたくない不二だった。
よほど疲れていたのだろうか、屋上に入ってきたことさえ全く気が付けなかった。
「話したいことがあるんだ」
「俺は無い」
逃げようとすると不二は貯水槽にバンッ!と手をつき逃げられないようにした。
「なにすん・・・!んっ!?」
言いかけた英二の言葉を全て消すように不二はいきなり口付けた。
最初は強引だったのにもかかわらず、一度離した後はじれったくなるほど優しかった。
ゆっくりと歯列をたどり奧に引っ込めていた舌を見つけ出すと絡めて甘く噛んだ。
「ん・・・」
久しぶりの感触を楽しむような穏やかな口付けに、抵抗していた英二の身体からどんどん力が抜けっていき
最後には不二に身体を預けることになってしまった。
離れる時は名残惜しそうに舌先に吸い付いた。
「お・・・前・・・卑怯だぞ!」
早くも息切れしている英二が息も絶え絶えで文句を言うと、不二はクスクスと笑った。
笑い声を聞くのも久しぶりだった。
「だって、こうでもしないと話聞いてくれないでしょ?」
う・・・と英二は言葉に詰まった。
確かにあんな事されなければ間違いなく逃げ出していただろう。
不二をさけていたのにはもう一つ理由があったからだ。
自分から話しかければ不二に決定的な何かを告げられると思っていた。
それはきっといいことではないと英二は考えていた。
「いい?ちゃんと聞いてね?」
不二は少しずつあの日のことを話し始めた。
先生の用事で部活に遅れた不二は終わった後に急いで部室に向かっていた。
(英二に怒られるかな?)
遅い!と自分に詰め寄ってくる英二を想像し不二はクスリと笑った。
すると、物陰から誰かがふらふらと出てきた。
よく見るとそれは同じクラスの雪名 美兎だった。
女子テニス部に所属していたはずの美兎は何故こんな所にいるのだろうか
今は部活中では?
「雪名さん?」
気になって声をかけると美兎はこちらを見て
「不二君・・・?」
と言うと力が抜けたように倒れかかり、不二はあわてて美兎の元に駆け寄った。
「雪名さん!?」
間一髪で不二が支えたことにより地面にぶつかることはしなかった。
しかし、美兎は苦しそうで小さな声で何かを呟いていた。
「ほ・・・保健室」
やっと一言だけ聞き取れたかと思うと美兎は気を失った。
「と、言うことだったんだよね」
話し終えた不二はにっこりと微笑んで英二を見つめていた。
「なに、じゃあ俺が見たのは・・・」
「そう、雪名さんを支えた時」
はぁーと英二は溜息をついた。
この一週間なにを怖がっていたのだろう、聞いてみればこんなに簡単なことであった。
確かによく考えてみれば部活中にあんな所にいるのはおかしい。
手塚も居たはずだが罰走はしていなかった。
気づくことが出来るポイントはいくつでもあったが、あまりのショックに何も気づくことが出来なかった。
「まさか・・・僕が雪名さんと付き合うとでも思っていたの?」
・・・図星だった
「だって!最近不二と美兎ちゃん仲いいじゃん!」
「あれはそのことを気にして、僕に何度も謝ってくれてたんだよ」
英二は今度こそ本当に脱力した。
無駄に悩んだ一週間を返せ・・・
すると不二がおかしそうにクスクスと笑って英二を抱きしめた。
「僕が英二以外を好きになるわけ無いでしょ?」
耳元で囁くとまた不二は笑い始めた。
そりゃそうだと思い英二も不二の背中に手を回した。
久しぶりの不二の感触、不二の匂い・・・
やっと自分の居るべき場所に帰ってこれたのだと英二は嬉しかった。
「ごめんな・・いままでさけてて」
「いいよ、英二だから許してあげる」
俺だからって何だよと笑いつつ見つめ合いどちらともなく目を閉じると・・・・
授業開始のチャイムが鳴った。
「残念、続きは部活終わってから僕の家で・・・ね」
その含み笑いからして今日は誰も家にいないのだろう。
何もかも不二には分かっていたようだった。
「一週間分しなくちゃね、英二」
「許してないじゃん!つか、俺明日学校休む決定!?」
「大丈夫、そのときは僕も休んであげるから」
フフ・・・と笑う不二にひでーといいながらそれも悪くないと英二は思ってしまった。
あんなにうるさかったセミの声も聞こえなくなっていた。
この耳に入るのは君の声だけ。
END
++++++++後書き++++++++
表不二菊初めての作品です。
甘くを目指してみたんですが・・・
ほのぼのにしかなりませんでしたね(泣)
修行します・・・
今回出てきた日坂緑芽ちゃんと雪名美兎ちゃんは違う作品でもつなぎとして出るかもしれません。
よろしくお願いします〜
夏でもないのに夏が舞台の作品を描いてしまった・・・・
