季節は巡りあれからもう七年も経つ
外で生きていけるんだろうか?なんていう不安は杞憂に終わって
俺たちは山奥のひっそりとした村で何とか生活していた
心配していた闇守の追っ手はどういうわけか全くこない



「英二」



呼びかけられて振り向くとそこには柔らかな笑みを浮かべた不二がいた

生きて行くにはどうしてもお金がいるから、といって不二は村にあった剣術道場で働いている
始めの頃は雑用ばかりだったらしいけど
今ではその見事な剣の腕を買われて師範代になったらしい
俺も働きたいと言ったのに怪我したらどうするの!?という不二の猛反対を食らって
渋々家事全般を引き受けることで落ち着いた

よそ者の俺たちを信じて受け入れてくれた村と優しい村の人
この七年間無事に生きてこれたのはこの人たちのおかげだとも思う



「お帰りなさい!」
「ただいま。ねぇ、今から少し出かけない?見せたいものがあるんだ」



そう言って手を引かれる
あの頃から比べて不二は感情を表に出す・・・というか表情が豊かになった
それに俺の知らなかった一面もいろいろ見えてくる
辛い物が好きだったり、悪ふざけが好きだったり、意地悪だったり
中でも一番びっくりしたのは嫉妬心が強くて甘ったれだったこと
少しずつだけど連絡を取れるようになった忍足からの文を複雑な表情で眺めていたし
誰とでも仲良くなれる俺を心配してか買い物に行くときまでべったりくっついてくる
本当にこれが夢幻と謳われた有名な人斬りだろうか?
なんて疑ってしまうほどの変わりよう
でもこれが不二の素なのだと思うと嬉しくてたまらない
だって素を見せてくれるってことは、信じてくれてるってことだろ?
俺も自分では驚くくらい普通を忘れていた
一番悲しかったのは男物の着物の着方を忘れていたことだ
今では何とか着れるようにはなったんだけど・・・
たぶんまだ女物の着物の方が着付けをうまくできる気がする
慣れって怖い

俺も変わった
不二も変わっていく
ゆっくりとでも確実に
これからどうなっていくんだろうと不安に襲われるときもあるけど
きっと大丈夫
だって独りじゃないから



「ほら英二、ぼーっとしてないで見てごらん」
「え?わっ!?」



気がつくと目の前には大きな山桜の木があった
暦の上で春になったとはいえ、まだ冬の名残の残る寒さ
枝にはたくさんのつぼみが付いており時期になれば色鮮やかに咲き誇るのだろう
この村に住んで長いとも短いとも言えない時を過ごしてきたけれど初めて来た場所だった



「もう少し暖かくなって花が咲いたら一緒に見に来よう」
「うん!凄く綺麗なんだろうなぁ」
「じゃあ僕は桜を見ている英二を見ていることにするよ。その方が楽しそうだし」
「お前、失礼だ」
「くすくす・・・・そう?」



いい出会いではない
むしろ最悪と言っても過言ではない酷い状況だった
でも今こうして笑っていられるのは不二のおかげ



「不二」
「ん?」
「俺ね・・・今・・・どうしようってくらい幸せ」
「・・・僕も同じこと考えてた」






























だって隣にあなたがいるから


































〜夢幻月〜