居場所




5月24日は俺の誕生日じゃない
5月12日は俺の誕生日じゃない
じゃあ俺はいったいいつ生まれたんだろうな?

あの南の島で発覚した俺の生まれた『理由』
それは耳を疑いたくなるようなものばかりだった

「マジックの息子ではない」
「ルーザーの息子でもない」
「アスの影として作られた存在」

つまり俺は誰の子供でもない
むしろ人じゃなかったということだ
なのに今こうして世界最強の殺し屋改めお仕置き軍団の総帥として生きている
俺が生きてきた二十数年間を否定する気はない
俺は俺だし、キンタローはキンタローだ
でも考えずにはいられなくなる
ここにいるべきなのはキンタローの方じゃないだろうか
俺がここにいるのは間違っているんじゃないだろうか
普段の俺なら考えもしないようなことを思ってしまうのは
今日が俺とキンタローの誕生日だからかもしれない

ガチャリと玄関の方から扉が開く音がした
どうやらこの部屋の主が帰ってきたらしい

「おけーり」
「シンタローはん・・・いらしてたんどすか」
「いちゃわりーかよ。で、どうだったんだ?」
「もう少しで包帯取れる言うてました。ふふ・・・心配してくれたん?」
「まーな」

そう言うとこの部屋の主、アラシヤマは嬉しそうに目を細めた

アラシヤマはパプワ島で「極炎舞」とか言う自爆技を使ったらしい
らしいというのも、俺はその場にいなかったためそれがどんなものなのか知らないからだ
みんなそれぞれ大きなケガをしていたが、あの戦いで本当に死にかけていたのはこの男だけ
そのときに負った火傷がなかなか完治せず未だ高松の所に通って治療を受けているのだという
団服の所々から覗く白い包帯は何度見てもやっぱり痛々しいけど、前に比べればだいぶ減った方だ
俺が見舞いに行ってやった時はミイラみたいなことになってたからな

アラシヤマは団服の上着を脱ぎ丁寧な動作でハンガーに掛けてから俺の隣にポスンと腰を下ろす
備え付けではなく自腹で買ったであろうソファーは俺たちが並んで座っても窮屈ではない
俺が右でアイツは左
いつの間にか決まっていた定位置は掛け替えのない居場所だ

「早くおいで・・・・だそうどす」
「は?」
「グンマ博士から。せっかくの誕生日パーティーを抜け出した主役を見つけたら伝えてくれ、て言われました。
 今年はお偉方抜きなんでっしゃろ?行った方がええんとちゃいますか」
「・・・・いかねーよ」

行けば、きっと俺の『家族』は温かく迎えてくれるだろう
でも行くわけにはいかない
温もり溢れるあの家族は俺の居場所じゃないから

「なんつーか、上手く言えねぇけど・・・怖いんだよ」
「自分の存在が、どすか?それとも家族が、どすか」

凜とした声と鋭い言葉がグサリと突き刺さる
そうだ、俺はあんなに大切に思っていた家族が・・・怖い
家族に囲まれて自分だけ異質なのが
いつか、お前の居場所はここじゃない、なんて言われそうな気がして

「逃げるんも・・・一つの選択肢どすえ」
「は?」
「ガンマ団、総帥、青の一族、全部捨てて。誰も知らん遠いところで静かに暮らす、そういうんもええんとちゃいます?」
「そん時オマエは・・・どうすんだよ」

もしも俺がその道を選んだら、なにもかもを投げ出しただ穏やかに生きることを望んだとしたら
こいつはまた刺客として俺を殺しに来るのだろうか
俺がコタローを探し一緒に暮らすためガンマ団を抜け出した、あの時のように
それとも・・・・
アラシヤマは楽しそうに夢見る口調で答えた

「せやねぇ・・・わてもガンマ団抜けると思います。命に代えても守りたいお人がおらへんのにこないな所におっても意味ないやろ」
「ふーん・・・師匠んとこにでも帰るのか?」

コイツが大人しく実家に帰るとも思えなくて何となく尋ねた
すると違うと首を横に振り、ゾッとする程綺麗な笑顔でこう言うのだ

「どこにいようと見つけ出して、個人的にシンタローの命狙うわ」

珍しくしっかりと合わせられた瞳は、士官学校の頃から少しも変わらない強さを持っていた
一緒に行きたいでもなく、連れて行けでもなく、見つけ出してって言うところが堪らなくアラシヤマらしい
つか命を狙うと高らかに宣言されたのに、何よりも甘い言葉に聞こえるってのも結構末期だと思うんだが・・・・

「ふんっ!じょーとーじゃねぇか。返り討ちにしてやるヨ」
「でもせぇへんのやろ?シンタローはんは。どんだけ辛い思いしても、総帥から、一族から、何より自分から、絶対に逃げ出さへん」

だから好きなんだ、とアイツは言う。他の誰でもない俺だから、側に居たいんだと
ぐいっと腕を引いて不意打ちでキスを仕掛けてやった
見透かされているようで、なんか腹が立ったから
俺が欲しかった言葉をいとも簡単に見つけ出して音に乗せるアラシヤマ
ムカツク、そんでもってほんの少し、マジでちょっとだけ、嬉しかった
思う存分唇を貪ってから離してやると、アイツは呆れたように笑う

俺が生きてきた二十数年間を否定する気はない
俺は俺だし、キンタローはキンタローだ

俺の居るべき場所は他のどこでもないガンマ団で総帥で青の一族で
コイツの隣




++++++++後書き++++++++
お誕生日おめでとうございます!シンタロー総帥><
なんとか、何とか間に合いましたぜ・・・
毎年毎年遅れ気味なので、ホント、ミトコンドリアから(ry

実はこのネタはずっと書いてみたかった
悩まないわけがない、悩まずにはいられない
そういう時に背中を押してくれるのは、やっぱりアラシヤマかなぁと!
アラシヤマだったらいいなぁと!
そんな願望から生まれたお話でした




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