My Dearest
あぁ行きたくない
それでも予定の時間は迫ってくる
総帥室に隣接されている仮眠室でおろしたてのスーツを身につけながら
シンタローは本日何度目か分からないため息を吐いた
今日は5月24日
ガンマ団総帥である自分と補佐役のキンタローの誕生日だ
そう、ただそれだけなのだが
元々華やかなことが大好きな一族の血もあってか毎年誕生日パーティーなるものが開催される
祝って貰えるのは素直に嬉しい
しかし各国の要人を招いて行われる誕生日会など楽しくないのが目に見えている
できるなら、家族と伊達衆と呼ばれている友人だけで祝ってもらいたい・・・
そんな愚痴を去年あたりはこぼしていた気がする
「何言うてますのん」
なんて去年は言われたが今年は愚痴を窘める唯一の人物、恋人兼部下のアラシヤマが不在だった
理由は単純明快。他国への遠征が長引いてまだ帰ってこられないのだ
「なんとしてでもシンタローはんの誕生日までには帰ります!」
とか偉そうに言っていたのはたった1ヶ月前のことなのに、もうずいぶんと昔のことのように思える
(あー・・・待つって結構大変なのナ)
締めかけていたネクタイを放り出してベッドに腰掛けた
本来ならすでに身なりを整え会場へ向かわなければいけないのだが、とてもそんな気にはなれそうにない
スラックスのポケットに隠し持っていたたばこを取り出して火をつけようとするも
ライターのオイルはすでに切れていたことを思い出した
「はぁ・・・おい、アラ・・・・」
思わずいつもの調子でここにはいないアラシヤマの名前を呼びかけて閉口する
ヤバイ・・・病気だ・・・
なかったやる気がさらに失せてしまいこのままサボってしまおうか、なんて考えが頭をよぎる
用意してくれた団員たちには申し訳ないが、具合が悪いと言えば最初の挨拶くらいで返して貰えるかもしれない
ならば、とキンタローに断りを入れるためケータイを取り出したのだが・・・
「シンタロー、入るぞ」
控えめなノックとともに部屋に入ってきたのは今電話をかけようとしていたキンタロー本人だった
「なんだ、まだ着替えていなかったのか?」
「あ・・・あぁ、なんか調子悪くてナ」
「本当か!?・・・と言う割には顔色はいいな」
自分と似たようなデザインのスーツを着こなしたキンタローは眉間に皺を寄せながらシンタローの隣に腰を下ろす
「サボりの相談なら受けないぞ」
「ちっ・・・よく分かりましたこと」
「伊達にお前と28年も一緒にいないからな」
クスリと笑う声色にはサボろうとしていたことに対する責めが見えなかった
もしかしたらキンタローも要人だらけの誕生日パーティーが嫌なのかもしれない
「心配なら電話でも何でもすればいいだろう?」
「は?誰に?」
「全く・・・素直じゃないな」
呆れたようにため息をつくと、キンタローはシンタローが手にしていたケータイを奪い
慣れた手つきで操作し始める
ちょっと待て、本当に誰に電話をかけてるんだこいつは!!
まさか・・・・
「もしもし・・・残念ながらそうじゃない・・・あぁ・・・待て、今代わる」
そっと差し出されたケータイ
この先にはきっとシンタローが今日一番会いたかった人物が震える手で
滅多に使われないケータイを握りしめ待っているんだろう
その姿が目に浮かんで少しだけおかしかった
「もしもし」
『シンタロー・・・はん?』
ほら、やっぱり
耳に心地よい京都の訛りとあいつの声
「こんな日に遅刻とは、いい度胸だナ」
『す・・・すんまへん。なんとしてでも今日中には付くようにしますかさい』
声を聞いただけ、言葉を交わしただけ
なのにこんなに浮き足立っている自分がいる
「罰としてこの先1週間俺の秘書。拒否権なし」
『はぁ!?わてにはわての仕事があるんどすえ!?』
「言ったろ、拒否権なし。仕事なら総帥室でやれ」
そんなとこで仕事なんぞできるかー!と喚いているような気もするが
シンタローはもちろんスルーした
休憩にかこつけてセクハラまがいなことをする気満々である
『あ、シンタローはんお誕生日』
「いい、帰ってきたら聞く」
『ふふ・・・せやね。ほな、キンタローに言うといてください誕生日おめでとうって』
「あぁ、気をつけて帰ってこいよ。じゃな」
プツリと小さな音を立てて通話は切れる
会話だけではやはり物足りないが今日中には帰ると言っていた
この飢えにも似た感覚は誕生日を祝う言葉と共にアラシヤマに癒してもらうことにしよう
パキンとケータイを閉じベッドの上に放り投げる
「もういいのか?」
「あぁ今日中には帰れるって。後オマエに誕生日おめでとう、だと」
寡黙で生真面目な従兄弟はそうか、と一言呟いただけだ
一瞬キンタローが見たこともないような穏やかな微笑みを浮かべている気がしたが
あえて何も聞かないことにする
ここで話をこじらせると面倒くさいことになりそうだ
「さて・・・・と、じゃあ行くか」
「なんだ、行く気になったのか?」
「まぁな。あいつが帰ってくるまでの暇つぶしにはなるだろ」
ネクタイを手に取り手っ取り早く結んでいると背後のキンタローからなぁ、と声がかかる
「シンタロー先ほどの体調不良の病名が分かった」
「はぁ?や、アレは仮病であって・・・」
「アラシヤマ欠乏症・・・・・だろ?」
下された診断にシンタローは返す言葉が見つからなかった
++++++++後書き++++++++
シンキンアラ祭り様に投稿させていただきました
拙い作品で本当に申し訳ないです・・・orz
アラシヤマほとんど出てないし><。
しょ・・・精進いたします
今回はシンアラ←ほんのりキン風味にしてみました
遅れまくったがシンちゃんキンちゃんハピバ!
タイトルは【私の最愛の人】