ライラック 






「なぁ、今夜って空いてるか?」

「なに言うてますのん。今夜言うたらシンタローはんの誕生日パーティーでっしゃろ?」





総帥室に呼び出されていた現伊達衆筆頭はサイン済みの書類をまとめながら呆れたように言う



確かに今日、5月12日はシンタローの誕生日だ(キンタローもだが)
今夜盛大な誕生日パーティーが計画されていると言うこともあってか本部全体に慌ただしい空気が流れている



そんな大切な日を忘れるわけがない





「今夜のパーティーのためにマジック様が1週間前から張り切って準備しとりましたえ。それに各国から人がぎょうさん来る
言うてはりましたな」

「それがイヤなんだよッツ!」





シンタローは大声を出すと書類にただひたすらサインを入れるペンを放り投げ背をそらした
コロコロと転がって机の下に落ちていくペンを見てますます嫌気がさす



誕生日を祝われることは不満じゃないむしろ嬉しいくらいだ
忙しくて普段はなかなか会えない美貌の叔父や顔なじみの伊達衆が集まって騒ぐのは気分転換にもなるし楽しいだろう



しかし各国から様々な人が来るとなると権力目当ての輩がよってたかって自分の所に来て楽しむどころじゃなくなるのは
火を見るより明らか



それがイヤでたまらなかった





「そないなこと言うて・・困るんはあんたはんだけやないんどすえ」

「んなこと分かってる」

「朝までするわけないんやから、数時間の辛抱どす」





はい、と手渡される転がったペン
受け取らなければいけない



だがシンタローはペンを持っていたアラシヤマの手首を掴んだ





「シンタローはんっ!?」

「休憩・・・いいだろ?」

「せ・・・せやかて・・・!」





突然のことに驚き声を荒げるが俺様総帥はどこ吹く風で、腕を掴んだままこっちに来いと手招きする



だが休憩している時間は実のところを言うと無い



総帥のサインがないと通らない案件があり、それだけではなく書類を取りに来たアラシヤマのデスクワークも少しだが残っている
そのうえパーティー全体の最終チェックも任されているとなると休憩などとっている場合ではない



なんとか手を離してもおうとするが逆に強く握られ眉をしかめる
従うまで離す気がないようだ





「わては忙しいんどす!そ・・・それにシンタローはんかてそろそろ準備せなあかんのとちゃいます?」

「ったく強情だな。いいから、こっちこいって」





もっともらしい理由を付けたがいつになく優しげな声色で微笑みかけられる
そんな顔をされて逆らえるわけがない



自分の部署に戻る方法を考えながら近づくが、予想に反し後ろから抱きかかえられるような格好で膝の上に乗せられてしまう
子供のようでかなり恥ずかしいのに、シンタローはその反応さえも楽しむかのようくすくす笑っていた





「・・・まだシンタローはんの誕生日プレゼント買えてへんのに」

「あぁ?なに言ってんだオマエ」





恨みがましく呟くアラシヤマを向かい合うように抱き直して右目にかかる髪に指を通す


こっちを見ろという合図なのだろうが何度されてもこの行為になれることが出来ない
ただでさえ人と目を合わせることが苦手なのに、相手がシンタローとなると恥ずかしいと感じてしまうのだ
このまま目を合わせないというのもありだが機嫌を損ねられて眼魔砲というのは謹んでご遠慮頂きたい



しぶしぶ顔を上げると、シンタローが人の悪い笑みを浮かべていた





「オマエ自身がプレゼント・・・だろ?」

「なっ!?」





歯の浮くようなセリフを囁かれあまりの恥ずかしさに一瞬気が遠のく
その隙を見逃さなかったシンタローが唇が触れるかどうかの位置までアラシヤマを引き寄せる

あまりの近さに目をそらそうとするがそれすら許されない





「ははっ顔真っ赤」

「誰のせいやとッツ・・・!!」

「俺か?ふーん、なら責任とってやるヨ」





白々しい物言いにしまったと思ったがもう遅かった

ギリギリの位置で止まっていた距離を縮められて唇が触れる
身体ごと引こうとしても後頭部を押さえつけられてしまい動くことが出来ない
アラシヤマが自ら口を開けてシンタローを求めるようにしたいらしく、頑なに閉じたままの唇を焦れったくなるほどゆっくり
舐め上げていった





「っ・・・はっ・・・」





薄く口を開けたところにすかさず舌を差し込み遠慮無しで口内を蹂躙する
歯列をなぞり舌を絡めると普段からは想像出来ないほど甘ったるい声を上げた





「ぁっ・・・・んぅ・・」

「アラシヤマ・・・・」





声のトーンを落として囁くとアラシヤマの身体がぴくりと揺れ動く
どこが弱いのかはとっくに知り尽くしている

そのままネクタイに指をかけると秘書室にいるティラミスからもう時間だと告げられた
名残惜しく思いながらも腕の中から解放するとすぐに乱れた服を直し始める





「続き・・・後ですっから」

「へぇ・・・」





まだ艶の残る声で返事をしたアラシヤマはきっちりと軍服を着直し脱兎のごとく総帥室から出て行った


扉を見つめながら先ほどまで触れていた男のくせに柔らかな唇の感触を思い出す



逃がすんじゃなかったナ・・・



数分後に自分の誕生日パーティーを控えている総帥は少し・・・・いや、かなり後悔した






















仕事用の軍服からフォーマルスーツに着替えたアラシヤマは、殺人的量の仕事を片づけ予定時間よりだいぶ遅れて会場に向かう
本来なら減給だろうが原因は総帥なのだからしょうがない

受付を済ませて中に入るとそこはすでに各国のお偉方らしき人物やガンマ団幹部、そして平団員達で埋め尽くされていて
今すぐに帰りたくなった
だがシンタローのスピーチは是が非でも聴きたい


場の雰囲気から考えて登場はもう少し後になるのだろう
それまで出来るだけ目立たないようにと壁に寄りかかるがうっとおしいくらいの人数に目眩がする



その物憂げな表情に新入団員がうっとりと眺め騒いでいたことを当の本人は知るよしもなかった






場内の照明が明度を落とし入り口がスポットライトで照らされる

相変わらず派手だと重いため息が漏れたが次の瞬間息を飲む
入ってきたところは人垣で見えなかったが壇上にあがった今、アラシヤマがいる場所からでもシンタローを
見ることができた

背後には彼と同じ誕生日のキンタロー、前総帥マジック、従兄弟のグンマという面々を従えている
身に纏っているフォーマルスーツは髪と同じ色の漆黒でとてもよく似合っていた






「皆様私の誕生日パーティーに来ていただき心より感謝いたします・・・・」





かなり嫌がっていたのに完璧にスピーチをこなすシンタローはさすがだと思う
これも才能というものなのだろうか?

乾杯用のワイングラスを受け取っていると不意に誰かに見られているように感じた
外していた視線をシンタローに戻すとじっとこちらを見つめていた事に気がつく

突然にっと笑ったかと思うとグラスを高く掲げて小さく口を動かした





「     」

「・・・っ!?」

「乾杯」





口パクだったが何を言ったのか分かってしまった
皆が口々に乾杯と言う中アラシヤマだけ口を開けなかった





『見つけた』




いたずらが成功した子供のようにニヤリと笑う
その笑い方は先ほどあった総帥室での行為をイヤでも思い出させた

思わず赤面しているとフラフラと誰かが近づいてくる






「なぁに顔赤らめてるんだがぁアラシヤマ」





根暗がそんな顔しても似合わないっちゃ

人のことを指さしてケラケラと笑うのは童顔忍者
乾杯してまだ間もないというのに早くもできあがっているようだ





「あっミヤギくんミヤギくん!さっきねアラシヤマが〜」

「やっとでれた・・・ってトットリ!オメ飲み過ぎだべ!」





いつも一緒にいるのにと不思議に思ったがどうやら人の波に飲まれていたようだ
さすが顔だけ阿呆

何とかワイングラスを取り上げようと奮闘しているミヤギをすんなりよけてトットリはグラスに残っていたワインを飲み干す
こんなに酒が弱くてよく刺客がつとまったものだとアラシヤマは感心した

とにかくこのまま放っておけば何をするか分かったものではないし、各国のお偉方に幹部の醜態を見せることは致命的ともいえる

酔っぱらったトットリが手に負えないのはとうの昔に経験済み
そして抑えられるのはベストフレンドのミヤギだけだ





「ミヤギはん、その酔っぱらい早うここから連れ出しておくれやす」

「ぼかぁ酔っぱらってなんかないっちゃ!!」





顔を赤くしながら酔っていないと言われても説得力ゼロなのだが嫌いな相手に命令され素直に従うトットリではない

まだここにいると座り込むトットリにミヤギがはぁあと大きなため息をつく
ため息をつきたいのはこっちの方だ





「部屋さ帰って2人で飲み直すべ?な?」

「んー・・・ミヤギくんがそう言うなら帰るわいや」





ぽんぽんと頭を撫でられ満足したのかミヤギの肩を借りながら会場をでていった

2人を見送ったアラシヤマはやれやれと首を振る
目の前でいちゃいちゃされるのはかなりはた迷惑
しかも見せつけられるような形になってしまった


(シンタローはんも見失ってしもた)


ミヤギとトットリのおかげでシンタローが壇上から姿を消していたことに気がつかなかった

どうせすぐに着替えてしまうのだからもう少しスーツ姿を見たかった、などと知れたら確実に眼魔砲が飛んできそうな事を考えながら
全く手を付けていなかった赤黒い光るワインを一息に飲み下した







「お誕生日おめでとうございます。総帥」

「あぁ、ありがとう」

「おめでとうございます。シンタロー総帥」

「ありがとうございます。わざわざお越し下さり感謝します」





祝いの言葉を述べる客や団員に軽く挨拶をしながらシンタローはアラシヤマを捜していた

後数時間で終わるとはいってもお世辞を聞くのはもううんざり
それだったらいっそのこと抜け出してしまおうと思ったのだ

とはいっても自分の部屋や総帥室となるとキンタローに見つかり説教される可能性が高い

となると・・・・・

誰にも見つからないような場所を提供してくれるのは心友しかいるまい


アラシヤマがいそうな人がいない壁際を中心に見るとすぐに見つけることができた





「アラシヤマ」

「シンタローはん!探しましたえー、せやけどまさかシンタローはんから見つけてくれはるなんて」

「なんでもいいから抜けるぞ」





勘違いでトリップしかけているアラシヤマの腕を引っ張ると後ろからシンタローに声がかかる





「シンタロー様お誕生日おめでとうございます」





振り返るとにこやかに微笑む女性がいた





「ありがとうございます、確かM国の・・・」

「えぇ初めまして」





握手を求められ応じると女性がまた柔らかなほほえみを浮かべた

この男しかいないような会場で女性参加者はこの人だけだ
キンタローにM国のトップは女性だから丁重に対応してくれといつにもまし何度も何度も言っていた
シンタローも同意見だったため了承したのだ

M国と良好な関係を保っていて損はない





「ご招待いただいて光栄ですわ。私あまりこういった催しに参加したことがなかったのもで・・・・なにかおかしなところがありましたら言ってくださらない?」





女性はそう言ったが、深紅のドレスは金色の長い髪に似合いすぎるほどでおかしいところなど一つもない





「とてもお美しいですよ」

「まぁ!おじょうずね」





にこやかに会話が進む中取り残されたアラシヤマは途方に暮れていた

2人を残して帰りたいが腕をシンタローに掴まれたままなので身動きがとれない





「総帥、下がってよろしいでしょうか」

「いや、ここにいろ」





気を使って申し出たのだが一瞬で拒否される

その様子を見ていた女性が突然そうだと両手を合わせる





「シンタロー様はこの後なにかご予定ありますの?」





素敵なお店教えて欲しいのだけれど?と問う瞳は明らかに誘うような光を宿していた

ここで断れば対立・・・とまではいかないだろうが今後の情勢に確実に影響を及ぼしてくるだろう

やはり無理にでも帰れば良かったとアラシヤマは後悔した
シンタローが女性を連れて行く所など絶対に見たくない

・・・・だがシンタローはその誘いをやんわりと辞退した





「すみません、せっかくのお誘いですが先約がありますので」

「あら残念。ならまた今度教えて下さる?」

「もちろん」






答えを聞いた女性はニコリと笑うと人の波に紛れていく

見送った後シンタローは目を丸くしたまま固まっているアラシヤマを引っ張り会場を後にした



















「断ってよかったんどすか・・・?」




キンタローに見つかることもなく会場を抜け出すことが出来た2人は、普段から人が寄りつかないアラシヤマの部屋に来ていた

勝手知ったる他人の部屋だ、スーツの上着を脱いでアラシヤマに渡すと冷蔵庫をあさる
会場では結局乾杯の時以外なにも飲んでいない


受け取った上着をハンガーに掛けながらアラシヤマはそれとなく聞いてみた
自分のところにいてくれるのは嬉しいがM国とは友好関係を保っておくべきだというのはアラシヤマも知っていること

だが当のシンタローは目当ての缶ビールを持ち出し、なに食わぬ顔でベットに座り飲み始めていた

飲み口から口を離すとムスリとした表情でシンタローは反論する





「んだよ、居ない方がよかったか?」

「そうやなくて、ここで機嫌悪くならはったら・・」

「大丈夫だろ、なんで俺の誕生日なのに俺が気つかわなきゃいけねぇんだヨ」





確かに正論といえば正論なのだがさすがの俺様っぷり
ここまでくるともはや感心してしまう

心配して損したとでも言うようにげんなりしているアラシヤマをシンタローは手招きした
所なさげに隣に座ればじっと顔を見つめられる





「それに・・・まだオマエから聞いてないんだけど」

「あ・・・」





そういえば今日一日まともにシンタローと話していない
総帥室では言いそびれ、パーティー会場ではまともに話す時間など無かった

遅れてしまったお詫びとなにより行かないでくれた事が嬉しくてアラシヤマは珍しく自分からシンタローを抱きしめる


そして耳元で小さく囁いた





「お誕生日おめでとうさんどす・・・・・シンタローはん」

「あぁ」








その言葉は誰から言われるより嬉しかった


素直じゃなくても根暗でも

こいつの代わりは誰もできないから

やっぱりこいつが1番いい
















++++++++後書き++++++++
ライラックは5月12日の誕生花ではありません!
ただ花言葉が友情だったので
心友だし・・・いいよな(は?
という意味不明な自信に基づいて
その場のノリとテンションで題名を決めてしまっているイタイ管理人です

真面目に書いた初シンアラ!!
今更ですがシンタローさんもアラシヤマもキャラ完全崩壊(ハハハ
乾いた笑いしか出てきません

そしてまたもや最後がグダグダ・・・
オワタ/(^0^)\