DOLCE




遠征から帰ってすぐ、シンタローの元に行き報告がてら顔を見るのは密かな楽しみだったりする
だがそんなささやかな楽しみさえ今日に限って叶わなかった


「外出中・・・」
「はい、今朝マジック様とお出かけになりました。本日はそのまま直帰なさるそうです」


マジックと一緒と言うことはまた同盟国との会合だろう
総帥の座を継いだとは言うもののまだマジックの方が大きな影響力を持っている
そのため、古くから同盟を結んでいる国々との会合の際は、嫌々ではあるがマジックと共に出かけることが多いのだ


「報告書はキンタロー様のところへお持ちいただけるとよろしいそうです」
「キンタローがいる?総帥について行ったんじゃ・・・」
「いえ、今回は会合ではなく・・・え!?お・・・お疲れさまです!!」


あからさまに驚いているティラミス
振り返ってみるとそこにはかなり疲れた顔をした総帥が立っていた
その上機嫌もよろしくないのか敬礼したままのティラミスと固まっているアラシヤマを無視して総帥室の中へと消えていってしまう

あの状態では報告書どころか話すらまともに聞いてくれそうにないと判断したアラシヤマは、報告書を託し総帥室のドアをノックした
予想した通り返事はない

中に入ると難しい顔をしたシンタローが火のついていないタバコを手にし、ぼーっと宙を眺めていた
これは相当危険


「どないしはったんどすか」


指先で火を灯すと今気がついたかのようにその瞳にアラシヤマの姿を映す



「帰ってたのか」
「へぇ、報告書はキンタローに」
「そうか・・・」


シンタローにしては歯切れの悪い答え
会話が続かないのはいつものことだがこんな風に・・・言うなれば気まずい雰囲気にはならない


「会合にキンタロー連れて行かへんなんて珍しおすなぁ」
「あ?・・・そっかオマエ知らねぇんだったな」
「遠征決めたんあんさんやろ」
「あぁ・・・そうだな」


実は・・・シンタローが一口も吸わなかったタバコをもみ消し重い口を開こうとしたとたん


「シンちゃん!!」
「ちっ・・・」


いきなり息を切らせて前総帥のマジックが現れた
その姿を見たとたんシンタローは嫌そうに舌打ちし眉間にしわを寄せる
何だろう
シンタローとマジックの親子喧嘩は慣れたものだがいつもと様子が違っている様な・・・


「いきなりお見合い抜け出すのはダメだよ。相手の方にも失礼だろう」


諭すようなマジックの声は優しげだったが、アラシヤマは話の内容に全身の血液が凍り付くような感覚に襲われていた
ちゃんと聞いていたはずだが耳を疑わずにいられない


「アラシヤマも説得してくれないかな」


この子なんだけどね、と差し出された写真を震える手で受け取る

そこには柔らかな雰囲気をまとったプラチナブロンドの女性が微笑みを浮かべ写っていた
やはり、シンタローの隣に並ぶべきはこういう人なのだ
想像して後悔した
あまりにも似合いすぎていて
団のためになり、シンタローの支えになり、尚且つ跡取りを残すことができる
決してアラシヤマにはできないことだった


「とても・・・お似合いだと思います」


声は震えていないだろうか?
シンタローの足枷になってはいけない
こんな自分を一時でも愛してくれたのだから


“好き”を教えてくれたのだから


「だろう?実際に会ってみたんだけど実に品のいいお嬢さんだったよ」


I国首相のお嬢さんだからね
小さく聞こえてきたマジックの本音にことの背景が見えてきた

I国と言えば今成長が著しい国の一つだ
I国首相の娘を迎え入れると言うことはI国はもはやガンマ団の指揮下ということ
その他の入り組んだ事情はよく分からないがそれが青の一族の狙いだろう


「恋愛するのは自由だけどね?そろそろ身を固めないと・・・」


マジックの言葉を遮るようにしてシンタローが机をバンッと叩く
荒っぽい行動とは対照的に話し始めた声は穏やかなものだ


「分かった。考えておくから今は出てってくれるか・・・オヤジ」


アラシヤマはがっかりした
自分も出て行けと言われるかと密かに期待していたがシンタローはそれを許さず
残れと遠回しに言っている

マジックが渋々出て行く中、アラシヤマは顔を上げることができなかった
お見合いするのはもちろんシンタローの勝手だが、なぜか裏切られたようなそんな気がして


「アラシヤマ」
「ずいぶん綺麗なおなごどしたなぁ」


わざと明るく振る舞いシンタローをからかってみる
こういう時にこそちゃんと顔を上げなければ・・・
なのに目が合わせられない


「おい」
「I国なら今急成長してはるみたいやし」
「なぁ」
「これで団も安泰やね。わても嬉しおす」



「オマエ・・・それ本気で言ってんのか」



いつになく真剣な声に言葉を続けることができなかった

嬉しい

悲しい

おめでとうと笑顔で言いたいのに
あの漆黒の瞳に見つめられたら泣いてしまいそうだ

不意にシンタローがアラシヤマの顎を掬い上げる
それと同時にいつの間にか溜まっていた涙が零れ落ちた


「バーカ・・・泣くなよ」
「泣いてへん」


そうは言うものの、溢れ出した涙はなかなか止まらず頬を濡らしていく
シンタローは苦笑するとアラシヤマの目元に柔らかく口付けた


「黙ってて悪かった・・・この話は断るから安心しろ」
「おらへんのやったらしかたあらへん。それよりええんどすか?」
「しつこい。どうなろうと俺の選択したことだ。責任はちゃんととる」


ふんっとシンタローは面白くもなさそうに鼻を鳴らす
I国と関係が悪化するのは目に見えているが意志を変えるつもりはないらしい

なんというか
昔からそういう信念が強いところは変わっていないと思う
決断が必ずしも良い方向に行くとは限らないが・・・

その時机の上に置いてあった電話が無機質な音をたてる
受話器を上げたシンタローの表情を見れば相手は簡単に予想できた


「あぁ・・・断っといてくれ。後で俺も電話入れとくから。・・・いいんだよ、俺はもう相手決めてっから」


話は途中であろうに乱暴に受話器を戻す

そして元の位置に戻ってきたシンタローがじっとアラシヤマを見つめてきた
見つめられるのは正直に言うと苦手だ
他人とは絶対に嫌だが、シンタローが相手だと嫌というか恥ずかしいと感じることが多かった

顔を逸らそうとしても両手で頬を挟み込まれてしまったため動けない
何をするつもりなのかと様子を伺っていると、突然でもないことを言い出した


「キスしていいか」
「なっ・・・なして!?」
「返事。オマエの口から聞きたい」


逡巡しているとまた電話が呼び出し音を奏でる
だがシンタローは全く電話に出る気がないようで完全に無視を決め込んでいた
催促するようなコール音に急かされ、アラシヤマは本当に小さく
囁くように言葉を紡いだ

聞こえないと意地悪く聞き直されることを覚悟したがそんなことはなく、直ぐに口付けが訪れる
触れているだけだった唇はシンタローの舌によってこじ開けられ濃厚なものへと変わっていった
お互いの舌をすり合わせるように絡めれば甘い痺れが全身に広がり同時に愛おしさも溢れ出す

いつの間にか涙は止まり電話の音も気にならなくなっていた


「んっ・・・ぅ・・んん・・・・・っは」


息継ぎのために少しだけ離れた距離
すぐに伸びてきた舌を少しだけ待ってくれと言う
どうしてもシンタローに伝えたいことがあった


「シンタローはん」
「ん?」
「・・・おおきに」
「何が」
「全部」


思い切って自ら唇を重ねる
こんなこといつもは恥ずかしすぎてできない
でも本当に嬉しかったから
シンタローを難しい立場に追い込んでしまったが、自分を選んでくれたことに
心から感謝した


「・・・   」
「わても・・・」


アラシヤマにしか聞こえないように囁かれた言葉は
どこまでも甘く柔らかい
















++++++++後書き++++++++
管理人はただ単にシンタローの見合い話を書きたかっただけです
こんなに長くなる予定はなかった!!!
拍手にしようかとトロトロ書いていたらいつの間にかにノリノリだったよww
題名は【甘く柔らかく】
最後そのままですww

団のトップともなるとやっぱ他国との友好関係もあるし、マジックから進められて見合いなのかなぁ
なんていう妄想から始まったお話です
最後にかかってきた電話はマジックからの予定でしたが出番なく終了
ものっそ無視されましたねww
この後シンタローはちゃんと言ったとおりに、お断りの電話を自分からもしました
敵対したら何かと不便でしょうし、責任はちゃんととりました
アラシヤマも気にかけてはいますが心配はしていないでしょう
シンタローはちゃんとしなければいけないことは果たす人だと思います


シンタローの最後の台詞は書くまでもなくあの言葉です