エチュード13
悲しく切ない曲
あなたがあの日弾いていた
なんだか悲しく
切ない曲
流れるように
零れるように
静かに響く
新総帥が多量の仕事を放棄し姿を消してはや三時間が経とうとしている中
秘書のティラミスとチョコレートロマンスは困り果てていた
総帥がいそうなめぼしいところはあらかた回ったし、キンタローにもグンマにも総帥と親しい伊達衆の3人
特戦部隊 にも命がけで聞いたが、結局居場所を知るものはいなかった
これ以上大事になるとまずい
非常にまずい
もしも親バカ前総帥の耳に届いてしまったら捜索隊を結成して探し出そうとするのは火を見るより明らかだ
こうなったらあの人に頼るしかない
同時に同じ考えに至った秘書たちは緊急処置として総帥代理をキンタローに頼むと最後の頼みの人物のもとへと急いだのだった
「なんでわてがキンタローの命令で動かなあかんのんどす!?」
総帥室に呼び出された頼みの人物アラシヤマは声を張り上げた
総帥室への呼び出しだったのでてっきり総帥自身が自分を呼んだのかと思い上機嫌だったのだが今となっては見る影もない
今にも炎をあげそうなアラシヤマをよそにキンタローは冷静に語る
「シンタローが消えた。チョコレートロマンスもティラミスも探し出せなかったんだ。お前なら探し出せるだろう。いいか?お前は」
「二度も言わんでええどす」
キンタローの言うことは正論で言葉に詰まってしまい、結局そのまま言い返すことができなかった
そうして今に至る
アラシヤマは中途半端にしてきた山のようなデスクワークを気にして盛大にため息をつきながら本部塔の廊下を歩いていた
ティラミスとチョコレートロマンスが探していない思い当たるところはいくつかあるがそこを探すとなるとかなり時間がかかり
今日中の仕事が絶対に終わらない
と、言うことは仕事が遅れて怒られるのはやはり自分なのだ
(まさかわての部屋なわけあらへんし・・・どないしよう)
「どこにいなはるんでっしゃろうなぁシンタローはん」
歩みを止めて窓から空を見上げる
シンタローは仕事から逃げ出すような人ではないことを知っているアラシヤマはふと思い出していた
前もこんな事があったような気がする
パプワ島から帰りアラシヤマがやっと退院した頃なぜかシンタローが迎えに来てくれた
あの時も後から聞いたら行方不明になっていたそうだ
あのとき自分とシンタローは・・・
「ピアノ!」
アラシヤマは叫ぶと誰も近づかない元総帥マジックの部屋にほど近いある部屋に走った
そこには簡単なバーと大きなグランドピアノがある
総帥や親族以外は誰も使わないその部屋であの日アラシヤマはシンタローから初めてありがとうと言われた
それに防音になっているので何度か本来の目的以外でここを使用したこともある
確証はない
ただそんな気がするだけ
扉の前に立つとやはりピアノの音が聞こえてきた
「これ前も弾いてはりましたなぁ。確か・・・」
「ショパンエチュード13」
中に入り話しかけると振り向きもせずに答える
何年も弾いていないはずなのにブランクを感じさせない音色はとても美しくて思わず聞き入ってしまう
別れのような曲なのにどこか暖かみがあって、アラシヤマはこの曲が好きだった
最後の一小節を弾き終わるとシンタローが立ち上がった
「仕事・・・戻んねぇとな」
「もう少し・・・弾いておくれやす」
「は?」
きっと誰もがシンタローが早く見つかることを望んでいるはずだし、自分もすぐに戻って書類を片づけなければならない
でも・・・・・
いつ別れになるか分からない戦場で生きているからこそ
少しでも
ほんの少しの間でも一緒に
また会えると分かっていても
今この瞬間を
あなたと過ごしていたい
++++++++後書き++++++++
最後がまたグダグダに・・・・OTL
最後をきちんと締める!!を目標に精進します
元ネタはマジックの憂鬱
あのピアノは誰が弾いていたのやら??
