Black Chocolate



今日の新総帥はいつもより2割り増しくらいご機嫌斜めだ
それは団員が任務を失敗したわけでも調子が悪いわけでもないのだが、とにかく機嫌が悪かった
そして我慢の限界が来たように叫ぶ



「邪魔なんだよこれ!!」



ばん!
とデスクを強く叩くと何箱かが床に落ちた
一番シンタローの機嫌を損ねているのは山のようにデスクに積まれたチョコレート



「失礼します。総帥追加入りました」



秘書のチョコレートロマンスがまたチョコレートの入った箱を腕いっぱいに抱えてくるのを見て
シンタローは軽く殺意を覚えた


しかし、贈ってくる奴らは食べてもらえるかもわからないものをよく毎年毎年用意するものだと
感心してしまう
だが感心するだけであって食べる気はさらさらない


シンタローは市販のものも手作りのものも全て焼却処分していた
それは士官学校時代にもらったチョコレートの一つを食べ猫耳が生えたときがあるのが原因だ(マジックに散々写真を撮らせろと迫られた)
トラウマに近い思い出以来貰い物のチョコレートはいっさい手を着けていない

たぶんあれはタカマツが実験に置いていったものだったのだろう
今思うと自分のうかつさに嫌気がさす


よってバレンタインのいい思い出が皆無だがチョコレートが安売りされているのは嬉しい
チョコレートはすでに買ってきしてあるし、たぶん使うであろうガナッシュも作り冷蔵庫の中だ
気分転換になにかを作ろうと考えを巡らせていると、ティラミスから声がかかる



「また追加かよ・・・」

「いえ、アラシヤマ様がいらっしゃいましたがお通ししますか?」



やっとメニューが決まって作ろうかというところに鬱陶しいのがきやがった、とシンタローは深くため息をつく
どうせいつもの任務完了報告だろう
追い払ってもよかったのだがせっかく上手く作れても食べる人がいなければお菓子がもったいない



「あぁ、通せ」



丁寧な返事が返ってきた後しばらくしてアラシヤマが部屋に入った
長期任務だったので会うのは約1ヶ月ぶり
直ぐにここにきたのだろう軍服にコートという任務用のいでたちだ



「お久しぶりどすなぁ。シンタローはん」

「あぁ」

「今回の任務も死者0どす。町もそない壊さへんとあっさり降伏してくれはりました」

「じゃあ何で1ヶ月もかけてんだよ」

「降伏は早ようしたのにもかかわらず反乱分子がやたら多くて、全部鎮圧するのに時間がかかっただけどすえ」



もちろん鎮圧したやからを含めて死者0どす

と自慢げに言う
根暗だが仕事は嫌みなほどできるのだ
この男は


報告が終わり部屋を出ていこうとするアラシヤマの腕をつかみ、動きを止める



「これから休みだよな」

「へ・・・へぇ、任務明けですさかい」



じゃあ付き合えと隣の仮眠室に連れ込んだ





仮眠室というと普通ベッドだけなど簡易的なものを想像する
だがここはキッチンやバスルームなどが完備されていて、仕事が忙しかったり家に帰るのが面倒になったときなどは
よくここに寝泊まりしていた



「とりあえず、おまえは風呂な」

「は?」



コートを手早く奪いとりてきとうに畳んであったバスタオルを渡すが何か別のことを想像したらしくなかなか受け取らない



「ほこりっぽいんだよ。それにいつまでもんな格好してんな」



シンタローがため息をつきながらもう一度ほらと手渡す


そない言うなら家でまっとりますえ?


そう苦笑するアラシヤマをさらりと受け流す
アラシヤマの言うことにいちいち耳を貸していると日が暮れてしまう
それに風呂に入っている間にチョコレートを完成させて恋人の驚いた顔を見たいという思いもある



「脱がされたいのか?」

「っ!?」



声のトーンを落として囁きかけると逃げるように浴室に走っていった
そこには確か以前に忘れていった部屋着があるから放っておいても大丈夫だろう



「よし、やるか」



シンタローは腕まくりをし意気揚々とキッチンに向かった






暖かい雨を浴びながらアラシヤマはシンタローに奪われたコートをしきりに気にしていた

あのコートにはシンタローに渡そうと思い買っておいたチョコレートが入っている
見つかってしまえばどうなることか・・・
とにかく回収するために置いてあったアラシヤマの部屋着、浴衣を着て扉を開けると
なぜかチョコレートの甘い匂いが部屋に充満している



「もう出てきたのか」

「へぇ・・・ところでなんどすのん?この匂い」

「チョコレートだよ」

「それは分かっとります。なんで部屋にチョコレートの匂いが充満しとるんどすか?」



あぁと振り返ったシンタローの手には銀色のボールがあった
その中には溶かしたチョコレート



「今日バレンタインだろ。乾いた奴なら食っていいぞ」



顎で指し示す調理台の上にはココアパウダーをまぶしたトリュフが並んでいる
いきなり話が進みすぎてなにがなんだかわからないがとにかく一つ食べようとしたとき



「あーお前さ、まさかただで食べようとか思ってねぇよな」

「お金とるんどすか!?」

「お前もよこせよ。チョコレート」



にっこりとシンタローは笑みを浮かべる
その視線の先にはコートからはみ出したチョコレートの箱があった



「せやかて、シンタローはんがもらいもんは全部処分してはるの知っとるんどす 」

「バーカ」



ぐいっと引き寄せられまた耳元で囁かれる




「好きな奴からは別に決まってんだろ」



脳内に響くチョコレートより甘い声
虜にならないはずがない



「シンタローはん・・・」

「今手塞がってるから食べさせろよな、口で」



恥ずかしさに震える手で包みを解き口にくわえてそっと口づける
口の中ですぐにチョコレートは溶けてしまい飲みきれなかった唾液と一緒にアラシヤマの頬に流れた



「甘いな」



甘いものを作るのは得意なのに食べるのは苦手なシンタローのためにブラックチョコレートを選んで買ったので、アラシヤマはそんなに甘みを感じなかった
だがシンタローは一人納得したようにニヤリと笑う



「おめぇの唇が甘いのか」

「なっ!?」



ただでさえ赤かった頬がますます真っ赤になる








分かりやすい恋人は

どこまでもおかしくて

とても



愛おしかった




++++++++後書き++++++++
甘いシンアラ目指してみました
全然甘くなくてものすごく落ち込みました
うーん・・・
ハッピーバレンタイン!!(開き直り)