雨降りしきる...
(やまへんなぁ)
強い雨が降り続いている六月の半ば
デスクワークを片付けながらアラシヤマは窓の外を眺めていた
外界は黒っぽい灰色に染まっているため時間が曖昧で時計を確認するととっくに終業時間は過ぎている
とは言うもの時間通りに終えることができない程書類の山があった
これは元々シンタローの仕事のためアラシヤマが処理できるのは途中まで
シンタローは机に座ってただサインし続けることを嫌い、たびたび前線に赴いている
いれば嫌々でも目を通すのだがいない間は全てアラシヤマが補っていた
他の部署に回すこともできるが他人には任せておけない事柄が多い
そしてなにより1人きりの静寂と空虚感だけが待つ家に帰りたいとは思えないからでもあった
すでに遠征から帰ってくる時間だったが雨で到着がかなり遅れているのだろう
アラシヤマが帰還すると入れ替わるように行ってしまったシンタロー
かれこれ2ヶ月ぶりの再会となる
(あかん・・・効率悪なっとる)
シンタローが帰ってくる
シンタローに会うことが出来る
ただそれだけなのに楽しみで嬉しくてしょうがない
まるで子供のような有様に苦笑しか出てこなかった
今日中に帰るという連絡はなかったがもう少し待ってみよう
そう思い立ちアラシヤマは窓から視線を外し再度書類に目を通し始めたのだった
そのまま数時間経った
しかしシンタローが帰ってくる気配は全くと言っていいほどない
とにかく頭を冷やそうと、残すは総帥のサインを待つばかりの書類を持ち部署をでる
廊下は蛍光灯の無機質な明かりに照らされ、まばらな人によりいっそう影を落としていた
それほど遠くない距離の総帥室の前に来ると、どうやら秘書たちはすでに帰ったらしく秘書室から光は漏れてこない
中に入り明かりをつけるとシンタローがいつも使っている机には書類の山がいくつも並んでいた
数週間も留守にしているためこの程度の書類がたまるのは当然なのに、この光景を見てうんざりとため息をつくシンタローの顔が
容易に浮かぶ
それがなんだかおかしくてアラシヤマはクスリと笑った
だが笑顔には隠しきれない悲しみが滲んでいるのが自分でも分かる
響くのは雨の降り続く音
どんなに願っても
想っても
これは仕事なのだしどうしようもないことだ
悲しむなんて間違っている
だが溢れる気持ちは自身の言うことを全く聞かず1人暴走し始める
会いたい
逢いたい
そしてなにより息が止まりそうな程の力で
ただ強く強く
抱きしめて欲しい
「シンタローはん・・・」
何度も何度口にした想い人の名前はただただ悲しみを増長させた
これ以上ここに留まっていても無駄に時間を浪費するだけだ
そう自分に言い聞かせ総帥室を後にする
シンタローの匂いがするこの部屋はいつだってアラシヤマを引き止め絡みついてきて逃れられない
失った時の悲しみが計り知れないと分かっているのに
シンタローをこの命に代えてでも守ると決めた日から
いや、きっとそのずっと前からシンタローへの執着心は消えなくなってしまっていた
疎まれても時折見せる優しさやまっすぐな瞳がアラシヤマを捕らえて離さない
逃げるように部署に戻ってはきたが先ほどまで一緒に仕事をしていた部下達も帰途についたらしい
どうせなら自分も帰ろう
ゆっくりと風呂につかって眠ればきっと大丈夫だ
元の自分に戻れる
(・・・ずっとここにいてもしゃあない)
愛しいあなたは帰ってこないのだから
使っていたペンなどを片づけ周辺の書類をまとめていると、雨の音に紛れて飛行船の音が確かに聞こえてきた
「っ!」
耳にした瞬間、片づけていた書類を放り出して駆けだしていた
深夜といっていい時間だったが帰ってきたのだ
愛しい愛しい
想い人が
屋上にでると土砂降りの中同行した一般団員が両サイドに分かれ敬礼している
その中心を、シンタローは悠然と歩いていた
アラシヤマは一歩足を踏み出す
雨が容赦なく服や髪を濡らしたが気にもとめずじっとシンタローを見つめた
彼は落としていた視線をあげてこちらを見る
「なにやってんだ・・・オマエ」
2ヶ月ぶりに再会した彼の最初の一言だった
「ったく、なんで中で待ってねぇんだヨ。風邪引いたらどうすんだ」
「すんまへ・・・わっ!?」
『なにやってんだ・・・オマエ』
(2ヶ月ぶりやのに最初の言葉がそれどすかっ!!)
ちょっとした失望感になんだか泣きたくなった
もう少し言い方があるんじゃないだろうか?
気にかけてくれたことだけでもアラシヤマにとっては死ぬほど嬉しいことなのだが
まぁ目があった途端眼魔砲を受け止めずにすんだのでまだいい方だろう
後ろに付いていたキンタローに後は任せると言い放った後
アラシヤマはシンタローに腕を掴まれ半ば強制的に総帥室の隣にある仮眠室へと連れ込まれた
「ほら、じっとしてろ」
掛けられたタオルでガシガシと乱暴に頭を拭かれる
シンタローの方がよっぽど濡れているのにもかかわらず、肩にタオルをかけたまま一心に
そんな何気ない優しさがアラシヤマをなんだかくすぐったい気分にさせた
が、かなり痛い
「い・・・痛っ!!シンタローはんちょっ、力入れすぎや!!」
「ウッセーこんくらい耐えろ、この俺様が拭いてやってんだからナ」
「そ・・・そんなぁ」
せやけどそないないけずなところも・・・・
言いかけた途端てめぇはMか!!と、どつかれた
ますます痛い
ひとしきり頭をかき回された後ようやく解放を許される
恨みがましく見やればフンと鼻をならされるばかりだった
「で、さっきの答えは」
「さっきの・・・・・答え?」
思い当たらなくて質問をそのまま繰り返す
何か質問されただろうか?
というかさっきとはどれくらい前のことなのだろう?
いろいろな疑問が頭を駆けめぐり、答えあぐねていると痺れを切らしたようにシンタローが口を開いた
「だから、なんで部屋で待ってねーんだ。どう考えても濡れるだろ?」
「あぁ・・・」
そういえばそんなことを聞かれたような気がする
嬉しさで脳内で消え去っていたのだからできることなら忘れたままでいたい
だって答えられるわけがないのだから
どうしようもないくらい寂しかった
だからあの場所にいた
などと答えたら笑われるどころではない
いつまでも引きずりってそれをネタにからかわれる
シンタローはそういう男だ
「寂しかったのか?」
「なっ?!べ・・・別にわてはっ」
ズバリと本音を言い当てられ慌てて否定したがたぶん信じてくれていない
何とかその恥ずかしい考えを消してもらおうと四苦八苦するが、元々口べたなアラシヤマには何もいい考えが浮かんでこなかった
だが寂しかったのは本当のことで
いない間ずっと思い出していた
シンタローがどんな風に囁いて
どんな風に自分に触れるのか
だが素直に言えるほどの勇気がアラシヤマにはなかった
シンタローはやれやれといった感じで頭を軽く振り、素直じゃねーとか可愛くねーとかブツブツ文句を言っている
いい年の男に可愛いという形容詞はどう考えても間違っているがここはあえてつっこまない方がいいだろう
機嫌を悪くされたら取り返しが付かない
「俺は寂しかったんだけど?」
「っ!?」
「そーかそーか、オマエは全っ然寂しくなかったのか」
「全然なんて誰も!!!」
「ん?んだって?」
にやりと笑いながら聞き返してきたシンタローを見て自分が口を滑らせたことに気がつく
だが気がついた所で後の祭り
こうなった俺様総帥は止まらない
ついうっかり口を滑らせてしまったのは自分
そんな不利な状況を作り出したのは目の前で面白そうに自分を観察している男だ
「わてをからかって楽しおすか?」
「すっげぇ楽しい」
まぁなんて素敵な笑顔
はっ倒したい
恋人だけど
上司だけど
敵わないのは知っているけど
1度でいいからはっ倒したい
「わて・・・帰りますさかい」
なんだかどっと疲れてしまった
のろのろと部屋を出て行こうとするといきなり腕を強く引かれた
そしてそのまま唇が重なる
「んぅ!?んんーっ」
いくら抗議の声を上げてもシンタローはお構いなしだ
流されてはいけない
そう決心したアラシヤマは堅く唇を閉じる
「抵抗する気か?無駄だと思うぜ」
そんなのやってみなわかりまへんやろ!!
と言いたいがここで口を開けば舌を差し込まれるに決まってる
そこはあえて口を開かなかった
「ちっ、いらねーこと学習すんな」
「んぐっ!!」
離されていた唇をまた押し当てられ、今度は鼻をつままれた
必死に抵抗するが空いていたもう片方の手で両手をひとまとめにされてしまい抵抗も出来なくなってしまう
空気を求めて口を開けると待っていましたとばかりにシンタローの舌が口内に入ってきた
ぬるぬるとしたそれは縦横無尽に口腔を探りどんどん力が抜けてくる
アラシヤマに抵抗する力がないことを悟ったシンタローは両手をひとまとめにしていたてを腰に回し
鼻からも手を離すと後頭部に添え口付けを深くした
「んく・・・ん・・・」
甘い口付けに酔わされながらアラシヤマはあれほど強かった雨の音が止まっていることに気がつく
いつから止んでいたのだろう?
今聞こえるのはくちゅくちゅという水音とお互いの吐息とうるさいくらいの心臓の音だけ
2人を包み込むその音とお互いの感触と温もりだけが全てで
それが素直に嬉しいと思えた
何かが欠落していた心が埋まっていく
満たされていく
それはきっとこの人だから
流されてなるものかと思っていたことなどすっかり忘れ
アラシヤマは下ろしていた腕をシンタローの背に回して自らも舌を絡めた
++++++++後書き++++++++
キスで無理矢理おわしたぜ!!
なんか新しい感じがする!!!(当社比
とにかくアラシヤマはけっこう寂しがりやだと思うんですね
いっつも1人1人とはいいつつも誰かしら隣にいるじゃないですか!!
7777Hitリクマチ様ありがとうございましたv
遅くなって本当に申し訳ないですUU
でもめっちゃノリノリで書かせて頂きましたv
特に最後ww
こんなもので良ければお納め下さい
苦情・返品常時受付中!
マチ様のみお持ち帰り可です♪