魔法使いさんの助言
お願い手伝って!!と可愛い可愛い恋人に頼み込まれれば断れるはずもない
もちろん、断る気なんか最初からなかったけれど
「確かに?俺が『ハロウィンパーティーしよう!』って言ったよ?でもさ、にゃんで誰も手伝ってくんないんだよー!」
部室内を飾り付けるため持っていたオレンジ色のランタンをちょっと乱暴に置くと英二はぷくっと頬を膨らませた
「しょうがないよ、みんな委員会とか日直で遅れてるんだから。それに、僕が手伝ってあげてるんだから文句言わないの」
「でもさぁ、準備からみんなでやった方が楽しいじゃん?」
後ろから突然抱きついてきた英二は楽しそうに室内を見渡している
現役の頃毎日使用していた部室は今やオレンジや黒、緑や紫といったハロウィンカラーで埋め尽くされていた
「英二、早く飾り付け終わらせよう?まじめに準備しないと、始めるの遅くなるよ」
「疲れたからちょっと休憩!」
「さっきから休憩してばっかりじゃない。飾り付けは僕がしておくから、英二はお菓子の準備して」
「ほいほ〜い!お菓子!お菓子!」
今までびったりと背中に張り付いていた英二はお菓子と聞いてすぐに離れていった
やれやれ・・・そんな無邪気なところとか大好きだなんけど。僕よりお菓子に飛びつくのはちょっと複雑な気分
大量にあった飾りもほとんどからになり、箱の底から出てきたのは天井を彩る為のきらきらしたモールだけ
高いところは英二に任せた方がいいんだろうけれど、お菓子に夢中になっているところを手伝わせるのはかわいそうだ
仕方なしに借り物の脚立に登り作業を始めたのだけれど・・・・
不意にバランスを崩し世界が反転した
不二!と言う英二の声が聞こえたような気がしたけれど、ゆっくりと意識が遠のいていった
「お兄ちゃん。こんなところで寝てるとかぜひくよ?」
誰かに揺り動かされて急速に意識が覚醒していく
慌てて跳ね起きるとそこはどこかで見たことあるような公園の真ん中
なぜこんな所にいるのだろう?
確か青学の男子テニス部部室にいたはずなのだが・・・・
「お兄ちゃんだいじょうぶ?」
後ろから起こしてくれたらしい子供の声が聞こえ振り返り・・・・硬直した
赤茶けた短い髪は襟足をほんの少しだけ跳ねさせて、鼻にはトレードマークのように絆創膏が貼ってある
一瞬女の子かと見紛う程大きい瞳は困惑した表情の僕が映っていてなんだか変な気分だ
「えっと・・・・ここは・・どこ・・・かな?」
「ここ?公園だよ。俺の家の近くにある」
「君の名前・・・聞いてもいいかな?」
「俺?俺は英二。菊丸英二だよ」
やはり・・・
嫌な予感は当たってしまった
今いるのは英二の家からそう遠くない公園で、目の前にいるのがなぜか猫耳を頭につけた英二にそっくりな子供
しかも名前は「菊丸英二」だという
一体どういうことなのだろう
「英二」と名乗る少年はどう見ても中学1年生の時の彼
この僕が他人と英二を見間違えるなんて事は絶対にあり得ない
ここに寝ている経緯を思い出そうとしても、部室で飾り付けをしていてバランスを崩し、脚立から落ちたところまでしか覚えていなかった
「お兄ちゃんにゃんでこんなとこで寝てんの?」
「それがよく思い出せないんだよね・・・・英二、くんはどうしたのこんなところで」
根掘り葉掘り聞かれても答えようがないのでこちらから質問をぶつけてみたら小さな英二はうなだれてしまった
誰かと喧嘩でもしたのだろうか?
事情を聞こうとすると後ろから誰かが小走りで近づいてくる音がした
きっと喧嘩して飛び出してきた英二を心配して迎えに来たのだろう
「英二!」
喧嘩相手の声を聞いて今度こそ飛び上がる程驚いた
これは・・・どう考えてみても僕の声だ
「英二、先生も先輩もみんな心配してたよ。学校に戻ろう?」
「やだ、なんでお前が来るんだよ・・・・不二」
この会話を聞いて僕は全てを思い出した
そうだ・・・今日は10月31日。青学男子テニス部でハロウィンパーティーが行われた日だ
その日みんなに仮装グッズが渡されたのだが、英二がつけた猫耳があまりにも似合いすぎていて
どうしようもなく可愛らしくて、僕は我慢できず吹き出してしまった
英二にはそれがバカにして笑ったように聞こえたらしい
そんな些細なこと、今ならば喧嘩にもならないけれど昔の僕たちはこれで大いにもめたのだ
「俺もう帰るから!」
猫耳の着いたカチューシャを外した英二は目に涙を浮かべて走り去ってしまう
残されたのは2年前の『僕』と2年後の『僕』
このときの気持ちは良く覚えている。
英二に誤解されたことが悲しくて、バカにした訳じゃなくて可愛かったんだよ、と伝えたいのに
追いかける勇気もない
「大丈夫、今ならまだ追いつくよ」
「これは僕と英二の問題です。それより、あなた誰なんですか?」
最高潮に不機嫌だった
それもそうだ、英二に逃げられた上に見知らぬ男が大好きな英二に話しかけられていたのだから面白くないに決まっている
昔から英二の事となると本当に心が狭かったんだな
「僕は魔法使いです」
「は?」
「ほら、急がないと英二が部屋に閉じこもっちゃう。ごまかさないでちゃんと謝らないと余計怒るからね。
それと、今感じている想いは絶対に間違いなんかじゃないから」
とん、と背中を押してやる
これで中学1年生の不二周助は進めるだろう
昔の僕がそうだったように
『魔法使い』を名乗るかなり怪しい男は僕自身だったんだ
公園を出て行く僕自身の後ろ姿を見送って、制服に付いた土を払いながら立ち上がった
この後僕の忠告も聞かず『僕』は照れくささからごまかそうとするだろう
それをまた英二に怒られて、ようやく素直に謝る
ようやく機嫌を直してくれた英二と手を繋いで学校に戻るのだ
この時初めて英二と手を繋いだのかもしれない
許してくれたのが嬉しくて、笑ってくれたことが幸せで、英二が好きだと思ったのがこの頃
それから告白までそんな時間はかからなかった
きっとうさんくさいと思っていた『魔法使い』の助言があったからだろう
「これで、一応用は済んだはずなんだけど・・・・どうやって戻るのかな?」
あの時英二の家に行っていたせいで『魔法使い』がどうなったか、なんて全然分からない
気がつけばいなかった、その程度の曖昧な記憶だ
とにかくいつまでも公園にいては怪しまれる
どこか適当な場所へ行こうと思い公園を出た瞬間左から来た車に気がつかず僕ははね飛ばされた
本日2度目の世界反転。
これはさすがに死ぬんじゃないだろうか?と思った時耳元で愛しい彼の声が聞こえた
「不二!不二ってば!」
「い・・・痛い・・・英二・・・そんなに揺らさないで」
グラグラと頭が揺れる感覚と共に意識が戻ってきた
ここは2年前だろうか?それとも元の世界?
「大丈夫!?いきなり落ちるからビックリしたよ・・・・」
「ごめん、僕もびっくりした。クス・・・でも今ね中1の時の僕たちを救ってきたよ?」
「へ?・・・・あ!!あの時言ってたうさんくさい『魔法使い』のこと?」
「そうそう、アレって僕だったみたい」
「でも、不二はここで倒れてたしどこにも行ってないよ?」
「不思議だね・・・」
ねー、と笑う英二が側にいるのはあの時ちゃんと謝ったからかもしれない
「さて、と。不二はしばらくそこで休んでて。パパ〜っとやっちゃうから」
「休憩はもういいの?」
充電完了だよん、といつもの台詞を言うと英二はテキパキと準備を再開する
まったく、英二はやる気にさせるまでが大変なんだから
「えーじ」
「にゃ?」
「また猫耳、つけてね」
英二は一瞬きょとんとしたがすぐに何を意味しているか分かったようで満面の笑みでいいよ、と返事を返してくれた
「不二が可愛いって、言ってくれんならね」
++++++++後書き++++++++
HappyHalloween!!!
ちょっと気が早いですが^^^^^
なんかぱっと思いついてざざーっと書いたものです
ショタ英二が書きたかったのですが思うように動かせずしょんぼりです
でもいい気分転換になりました〜
ふへへ
ハロウィンは猫耳をつけ放題だから萌えます
先輩とかにほめられてノリノリで猫耳つけた英二は不二か吹き出したのを見てショックを受けて脱走
それを迎えに行く中1不二様、と言うアレです