雨の日のヤキモチ



信じて・・・
なら、証をちょうだい
信じるための
消えない印を




しばらく、一緒に帰れない
不二にそう言われたときは軽い気持ちでいいよと答えていた。
その日からいったい何日たっただろう?


「不二!一緒帰ろ〜」


今日も俺は懲りずに誘った。
まだ一緒に帰れない?そんな問いを飲み込んで・・・


「ごめんね、約束してるから」


すまなさそうに謝る不二
まぁどうせ分かってたよ
どうせまたあいつと帰るんだろ?


「不二」


ほら・・・来た


「手塚、今行く」


またね、英二
不二はそういい残して帰って行った
一人残された俺は無意識に首筋に残された紅い跡に触れる
最後に不二と交わったときに付けられたもの
俺が不二のものだという証
何故かコレだけは何日たっても消えない


「なんか最近あんたたち変じゃない?」


突然話しかけられた
日坂緑芽
このクラスで俺たちの関係を知っている唯一の人物だ
心配なのか俺の顔を覗き込む


「しかも、不二と一緒に帰ってるの手塚みたいだし」


そーだよ・・・
俺は軽く答えて教室を出た
どうせ一緒に帰る人はいないから






昼から降りだした雨はいっこうに止まず暗くなった気持ちに追い打ちをかけるようだった


「英二先輩!!」


後ろから知っている声が聞こえた
そう言えばおチビも被害者の一人だ
手塚と一緒に帰っていると聞いたことがある


「どした?傘でも忘れた」
「はい、だから入れてください」


素直な奴・・・と苦笑しながら誰かと一緒に帰れることに少し感謝して
俺たちは歩き出す
降り注ぐ雨の中おチビが突然声を上げた


「あれって・・・部長と不二先輩じゃないっスか」


はっとして顔を上げた
首筋の華が少し痛んだ気がした


「不・・・二・・・?」
「部長・・・」


俺たちは目を疑った
当たり前だ
そこまでするとは思ってなかったんだから
不二と手塚の影が重なっていた
俺は傘をおチビに握らせると濡れるのもかまわず走った

いや、逃げたんだ
辛くて悲しくて
あのままあそこにいたら壊れてしまう
そう思ったから




次の日俺は不二と2人きりになるのがいやで避けるようにした
2人きりになってしまったら全てを壊す言葉が待っているような気がして




でもその瞬間が訪れた
部室で着替えているとかちゃりとドアが開いた
不二かと思って慌てて振り返る


「先輩?」
「あ・・・ん?どーした」


おチビだった
まだ諦めきれないなんて・・・


「俺とつきあってくれませんか」

「はぁっ!?」


入ってきて突然言われたことに困惑してただ聞き返すことしかできない
なにを考えてるんだ?


「不二先輩とは別れたんでしょ?だったら俺とつきあってください」


グサリと刺さる
相変わらず生意気
でも言っていることは嘘じゃない
好きだと言ったあの言葉もキスも全部裏切られた
そして俺は決めた


「いいよ」


もう未練は断ち切ろう。不二には不二の人生がある
俺が邪魔しちゃいけないんだ
(これでいいんだよな・・・?)
おチビの顔がゆっくりと近づいてくる
俺は眼を閉じた
暖かいものが頬から流れ落ちる
もう泣きたくはないのに止まらない


「先輩?」
「っ・・・」


やっぱりダメなんだ
頭ではわかっているのに心が求めてしまう不二がいいと


「ごめ・・・やっぱり俺っ」


まだ不二が好き


「まだわかんないんすか!俺もあんたも裏切られたんすよ!」


いつもはクールなおチビが叫んだ
声が震えている
下を見ていたから顔は分からなかったけどおチビも傷ついているんだろう


「だから・・・諦めるしかないんすよ」


後頭部を押さえつけられて唇をふさがれる
拙い口付けに不二との違いをありありと感じさせられた


「んぅ・・・はっふ・・・じ」


息継ぎの間に届かないと知りつつ彼の名を呼ぶ
だんだん声が小さくなっていくけど、ずっと呼び続ける

(不二っ)

足から力が抜けていく
おチビは唇を離すと首筋にチュッとキスをして服の下から手を差し入れてきた
あまりの性急さに俺は慌てて抵抗する


「ヤっ!おチビ!」


でも全く動じてくれない
そしてついに不二に付けられた左首筋の紅い跡を見つけられた


「なにこれ?」


その問いに答えないとしつこく舐められる
ゾクゾクと背筋に緩い電気がはしり俺はその場に崩れ落ちてしまう


「や・・・だ!不二っ不二!」


部室の扉がまた開く
そこには来るはずもない恋人がいた
静かに俺たちのもとに近づいてくる


「どういう状況か分からないんすか?」


挑発的に笑うおチビを気にとめることもなく不二は冷たく言い放つ


「手塚がここに向かっているよ。早く行かないとまずいんじゃない」


たった一言でおチビは慌てて外にかけだした
重い沈黙が続く
聞かなければいけない
でも聞きたくない


「英二」


ビクッと身体がふるえた
頬に触れられたとたん抱きついた


「英二!?」


不二は混乱しているみたいだった
当たり前だ
そしてつい言ってしまった、ずっと心の中に渦巻いていた言葉を


「て・・・づかんとこ行っちゃヤダ!俺のこと好きじゃなくなるなんてヤ・・・んっ」


震える声で話していると唇をふさがれる
唇の感触も懐かしい
俺が少し落ち着いてから不二はゆっくり唇をはなした


「僕がいけないんだよ英二。僕と手塚が乾の実験に乗ったから君に辛い思いをさせたね」


実験?
あれが?
不二は詳しく内容を教えてくれた
つまりはおチビの感情調査だった
不二は俺に妬いてもらえるという条件で承諾して傘の下で重なっていた影はふりだったらしい
乾め・・・
後で覚えてろ


「でも英二がこんなに妬いてくれるとは思わなかったな」


クスクス笑いながら俺の頭をなでる
笑い事じゃないよ・・・こっちは本気で泣いたのに


「いいじゃん別に〜!」


悔しくてそっぽを向くと不二がつつ・・・と首筋に舌を這わせた


「なっなんだよ急に・・・」


不二は声のトーンを下げて優しく俺に聞く


「越前に舐められてたよね?それにつき合うって言ってたし。僕という者がありながら二股かけるような子には
やっぱりお仕置きが必要でしょ?」


にっこりと微笑んではいるけど眼が笑ってないから怖い・・・
本気で怖い


「ご・・・ごめん謝るから」
「ダメ、それに部室でするの久しぶりだしね」






俺が悲鳴に似た叫びを上げるのはもう少し後の話







++++++++後書き++++++++
この後英二は離れていた期間以上に愛されましたとさv
なんか似たような展開になりましたが気にしない気にs(殴)