monochrome reality




あなたの元へ
ただそれだけを願っただけなのに
なぜだろう
周りは皆、いくなと引き留める

どうして
どうして邪魔をする?
こんな色のない世界は現実じゃない
夢から目を覚ますだけなのに

心はあなたを求めてやまず
無意識にあなたの名前を口ずさむ

置いていかれたなんて
信じない







シンタローという名の総帥は
人質になった子供を助けるため
志半ば、激戦区で命を散らした

後ろでいつも見守っていたアラシヤマという腹心の部下は
総帥の訃報を、一緒に戦場に行った彼のいとこから聞かされた

亡骸を持ち帰ることは出来なかった
その代わりだという遺髪
受け取ったとたん、彼は自らの舌を噛みきった

部下であり、恋人でもあった彼は絶望したのだ

いつも側にと願い、死ぬならば想い人の盾になりたいと
常日頃言っていた彼のささやかな願いすら聞き届けられることなく
守ることも、ましてや盾になることすら出来ないまま
最愛の人は別れも告げず、彼一人を残して逝ってしまった

幸い、周りにいた者達の努力で彼は一命を取り留めてしまう
嫌いだと公言していた童顔の忍びは
泣きながら彼の頬を叩いた

それで逝ってしまった者が喜ぶのかと



また舌を噛み切りかねないと判断され、マッドドクターと竹馬の友により
彼は記憶の一部を消されることになった

彼が愛した人の記憶だけを全て
愛したことも
愛されたことも
想ったことも
想われたことも
感じた温もりも
指先に触れた感覚も
共に過ごした日々も

その全てを






数日後、彼は目を覚ます
想い人の記憶だけが綺麗に抜け落ち、治療は成功かとも思われた


だが
彼は自分の名前を覚えていなかった


昔のことも、皆の名前も、昨日の仕事の内容すら言えたが
自分の名前が霞のかかったように思い出せないという
以前の暗い性格とは180°違い声色明るく彼は答えた



「仕事はできますから。今日から俺に書類回してください」



名前同様
あの特徴的な京都訛りがなくなっていた
濃紫の瞳からは暖かみが消え失せ
時折見せていた柔らかな笑みもない



元の名前を教えるのは危険とされ、団の登録から抹消された
その代わりに『ラン』と名を改め、ひたすら忙しい毎日を送る
もちろん、何度も足を運んだ総帥室に入っても
彼は何の反応も示さない






想い人は全て持ち去ってしまったのだ
愛おしげに囁いていた名前も
心地よいと言う話し方も

そして心すら

自らが好んでいたもの全てを


総帥をよく知るものは当然だと悲しげに笑う
彼の独占欲の強さは一級品
一度手に入れたものをそう簡単に手放すはずがない、と

そしてこうも言う

心だけで俺様が満足するはずがない
すぐに迎えに来るだろう

















奇しくも、その話は現実となる
アフターケアのために診察していたグンマの元に
彼の恋人は光と共に姿を現した

グンマもおかしなモノばかり作ってはいるが、科学者の端くれ
このあり得ない出来事に身動き一つ出来なかった

いきなり現れたシンタローにゆっくりと視線を移す


と、記憶を消して抜け落ちたモノが一瞬にして戻り
彼は蕩けるような笑みを浮かべる



【わり。遅くなったナ】
「ほんま、遅刻どすえ?シンタローはん」
【んだよ、ちゃんと迎えに来てやっただけありがたいと思え。アラシヤマ】
「へぇへぇ」



クスクス笑いながら、差し伸べられた手を彼は取った
するとシンタローを包み込んでいた光の粒子が
アラシヤマをも包み込む



「・・・・・・!!!!アラシヤマ!?ダメだよ!!!」



我に返ったグンマが慌てて手を伸ばしたが、もう何もかも遅かった
しっかりと抱きしめ合った彼らは、もはや同じ世界の存在
グンマが立ち入れる場ではない



【じゃあ、俺らは先にいってっから。親父によろしく伝えておいてくれ】
【グンマはん・・・色々とおおきに】



見つめ合った二人は少し照れたように笑い
光は音もなく消えていった


残されたのは、グンマと安らかな微笑みを浮かべた彼の身体だけ



「ずるいよ・・・・2人だけ・・・・・幸せだなんて・・・っ」



魂の抜けた彼を抱きしめて
グンマは何時間も1人で泣き続けた







目を覚ましたらあなたがいた
ほら、やっぱりこっちが現実
意地悪で、俺様
それでも
優しいあなた

ずっと側にいます
ずっとずっと
永遠に_______。




++++++++後書き++++++++
シンアラ初
むしろ、人生初の死ネタ
重いっす
悲しいっす
やっぱりいちゃいちゃラブラブハッピーがいいっす