Darling Liar
“心友”
それは嘘
友達になると言えば付いてくるのは知っていた
だけど
“愛してる”
それは本当
その一言で縛り付けたつもりでいた
できるならば、知らずに生きて
最期を迎えるその日まで
気付かないまま
幸せに
目の前にそびえる書類の山
何の魔法がかかっているのか知らないが、真面目に目を通しているのにも関わらずいっこうに減ってくれない
それどころかさっきよりも高くなっている気がする
確かに一般団員の時から報告書の作成とかはしてたけど、どう考えても俺は実戦の方が向いてんだよ
でもこの未決済書類を全部片付けないと、外に出してくんねーんだろうし
はぁとため息をついて空で言える内線番号をプッシュする。やっぱ持つべき者はデスクワークが得意な心友だよナ。
いや、アイツもどっちかっつったら実戦向きだろうけど
恋人兼部下兼心友のアラシヤマは、戦場で別人のように豹変する
特戦部隊の炎遣いマーカーを師匠に持ち、幼い頃から修行していた努力のたまものか
はたまた天性の才能なのか、アイツの動きには一切無駄がない
炎を纏い戦う姿はまるで舞を舞っているかのようで、壮絶に綺麗だった
不殺を掲げた新制ガンマ団ではもう二度とお目にかかれないかもしれないけど・・・
ワンコール。出ない。まぁ一応休暇中だしナ、しょうがねぇか
2回目。出ない。3回目。出ない。
いつもならワンコールで出るのに。呼ばなくても手伝いに来るくせに
4回目。ようやく繋がった。
「は、はい一般課アラシヤマ!」
「遅い、ワンコールで出ろよ。もし緊急事態だったらどうするつもりだったんだ?」
「え、あ、シンタローはん!どないしはったんどすか!?」
あぁよかった。
・・・・何が?何だ今の安堵は。
友達のいない引き籠もり根暗が家を空ける事なんて無いのに
あぁ入れ違いになったかもしれないからか
「オマエどうせ暇だろ?書類の期日ヤバイから手伝えよ」
「今からどすか!?・・・・っぁ」
「ったりめーだ。3分で来い。来なきゃ減給」
「ちょ!?シンタローはんほんまに?マジどすかっシンタローは・・・んっ」
突然ブツリと通話が切れた。あの野郎・・・
アイツが住んでる寮からここまで、どんなに急いでも3分で来られるわけがない
もちろん承知の上で命令してる。
慌てていたり、困っていたりするアイツは結構可愛い。それを知っているのは俺だけ
優越感と独占欲が満たされるからよくやる。
もちろんその後のお仕置き込みでおいしいから
予想通りアイツは3分で来なかった。つか時間かかりすぎだろってくらい遅れてきた。
はい、減給決定
たっぷりの書類を渡してから極上の笑顔で死刑宣告
「後で反省文提出ナ」
「休日に呼び出しておいてその態度どすかっ」
ため息を零しつつ書類の処理を手伝うアラシヤマ
相も変わらず嫌味なくらい仕事はできる男だ。
俺と二人きりの時は絶対にそんなことしないくせに、人の前ではストーカーっぽく振る舞ってみたり、やたらウザイことを言ってみたり
それで俺たちの関係を隠しているつもりかバカ
ふと白い項に目が行って、首を傾げた
なぜか髪の襟足が濡れてる
「風呂入ってたのか?」
「ッツ!?そ、そうどす。せやから電話に気付くん遅れてしもて」
「あっそ。電話も突然切りやがったしナ、罰として今日はオマエの部屋」
「またどすか・・・」
「なんか文句あんのか?」
アラシヤマは苦笑するだけで何も言わなかった
変わらない日常
日々重くなっていく想い
だから気づけなかった
ヒントも、答えも、そこら中に転がっていたのにな
ある日タバコを吸うため(総帥室はグンマに禁煙にされた)屋上に向かっていると
人気のない通路の一角からアラシヤマとコージの声が聞こえてきた
どーりでいつまで経ってもこねぇはずだ。ったく至急の用件だっつったのに
何となく気になって物陰から様子を伺ってみることにした。
こんなとこで何やってんだろう、俺。やってることがアラシヤマっぽくてちょっと鳥肌が立つ。
そういえばアイツらなにげに仲いいんだな。コージの妹もアイツのこと気に入ってるっぽいし。
つか団内女人禁制のはずなのにどうしてアレは普通に入ってきてんだろう・・・
今のところ実害はないからいいものの、今度見かけたら出入り禁止だって事を忠告しとかねーと。
何かあってからじゃ俺の責任になりかねん
2人に視線を戻すとコージが何事かをそっと耳打ちして、根暗が顔を真っ赤に染めた
ちょっと意外で、かなりムカツク
へぇ、俺の前以外でもそんな顔すんだ
俺だけに見せてりゃいいのに
俺だけが特別でいいのに
腹の虫が治まらなくて、からかってやろうと思って近づいたら
コージがアラシヤマの腕を引き
何故か、唇が重なり合った
・・・は?
ちょっと処理できない。え、コージってソッチの気あるんだっけ?
「と・・・・っ、突然なにするん!?」
アラシヤマが慌てて男を引き離す
うん、だよな。俺もビックリした。コージは冗談でもこういうことするヤツじゃないから
「もし人通ったりしたら、どないするつもりだったん・・・」
「今日は・・・・・もう、会えんのじゃろ?」
「・・・へぇ、シンタローはんと約束しとるさかい。ふふ、それで拗ねてはったん?」
俺の名前がでて飛び上がるくらい驚いた
間一髪気付かれなかったけれど
何で会う必要がある?伊達衆でどっか飲みに行くからアイツも誘おうとした、とかか?
いや、ミヤギは北にトットリは東へ遠征中だ。戻ってくるのも当分先のこと
アイツが言う俺との約束って、今夜部屋に来いって言ってあるアレだよな?
コージがまた何事か耳打ちして、呆れたように笑ったアラシヤマが囁くように言った言葉
本当に小さくて、よほど近くなければ聞こえない。でも唇を読めてしまった。読んでしまった。
「愛しとりますえ、コージはん」
一瞬にして全身の血が凍り付く
なんだよ、それ?
なんでだよ?
なんで
俺には『愛してる』なんて一度も言ったことがないくせに
いつも悲しそうに笑って『好き』としか言わないくせに
目の前が染まっていく。赤とか、青とかそういう感じじゃなくて
眩しい程、色彩で溢れていた世界が一瞬にしてモノクロに
思い出してみれば、おかしいなと思うことは多々あった
休暇中のアイツに電話をかけた時、何をやっていた?
襟足が濡れていたのは?到着が遅れたのは?
いつだって気づけた。ただ見ない振りをしていただけ
心友だと言ったあの日から、アイツは俺だけを見ていると思ってた
でも、そんなの自惚れに過ぎなくて
俺は、最初から、愛されてなんか居なかったんだ
約束通り真夜中に俺の部屋にやってきた心友をきつく抱きしめて、触れるだけの口づけを繰り返す
今日はずいぶん優しいと、アイツは笑う
優しすぎて怖いと、俺の好きな声で
「ちょっと、聞きてーんだけどさ」
「ん・・・・なんどすか?」
「オマエ、昼間コージと会ってただろ?」
俺の髪を梳いていた、アラシヤマの手がピタリと止まった
あぁやっぱり。あれは俺の夢じゃなかったんだな
「なぁアラシヤマ。オマエにとって俺はなんなわけ?」
「・・・・っ!」
「言えよ。怒らねぇからさ」
恋人か、上司か、戦友か、ライバルか、それとも心友なのか
選択肢はいくらでもある。
胸に秘めた感情とは真逆に声だけは冷静で優しげだった
だからかもしれない
アイツは言ってはならない『あの言葉』を口にしてしまう
「心友・・・どす」
「そっか・・・・じゃあ、オマエは、友達になら抱かれても、平気なんだ」
恋人が居ながら、どうして俺に抱かれた
どうして俺に笑いかけた
どうして、俺に優しくしたんだよ
「それはシンタローはんやから!!」
「いいぜ、許してやるよ」
「え・・・・?」
「オマエと俺はオトモダチ、なんだろ?」
オマエにとって友達は何よりも優先すべき事のはず
なら俺の頼みを聞いてくれるよな?
だって俺はたった一人の『心友』なんだから
「オトモダチのアラシヤマくん。俺、今すげー困ってんの。もちろん助けてくれるよな?」
今度はアラシヤマが凍り付く番だった
もう逃がしてやらない
アラシヤマが遠征先で行方不明になった
そんな報告を聞いて真っ先に捜索隊に加わったのはアイツの『恋人』
敵国の捕虜になっているかもしれない。まぁアラシヤマは強いから、そんなことあり得ないかもしれないけれど
そんな冗談を言って豪快に笑い、さっき出発した
そうだな、コージ。オマエの言うことは的を射てるよ
アイツはガンマ団で誰よりも強い。でも覆せない事実がある。
それは俺より弱いってこと。俺を傷つける事なんてできはしないってこと。
今となっては誰も近づかないガンマ団本部塔最上階。昔コタローが眠っていた部屋
コタローの代わりに幽閉されているのは行方不明の誰かさん
カードキーを差し込んで扉を開ける。監視カメラはとうに外して、内線も切った。
今目にする人間は俺だけなのに、それでもまだ足りない
「ただいま」
「おかえりなさい、シンタローはん。頼まれとった書類できとりますえ」
「おーサンキュ。助かる」
くしゃりと頭を撫でてやると嬉しそうにソイツは笑う
この部屋に繋がれているのは誰かの友達だったヤツで
誰かの恋人だったヤツで
今は俺の所有物
ある夜「シンタローはんを歪めてしもたんはわてや」と小さく呟いてから一切抵抗しなくなった
愛していると囁けばアイツはいつもと同じように悲しそうに眉間に皺を寄せて
好きだとだけ返してくれる
それでもいい
アラシヤマが側に居てくれるなら
どんな理由であれ、俺のもので居てくれるのなら
これだって立派な愛のカタチ
++++++++後書き++++++++
愛しの嘘つきシンちゃんVer
シンちゃんをヤンデレ化させるとそこで話が終わってしまうんじゃないだろうか・・・
コアラ初挑戦でした
うまく表現できなく・・・おう・・・
ほぼ走り書きですがアラシヤマ視点もあります
ここから