風、空。


風を感じ

空を見上げた

いつもより近い

だけどずっと遠い

僕はとても小さかった




任務完了の報告書を作り終えトットリは休憩するためにガンマ団本部塔の屋上に来ていた
ここは風が気持ちいいためか昼休みにはかなり混雑する

だが昼休みはもうとっくに終わっているため今は休みを貰えたトットリ一人だけ
心地いい場所を独り占めしているという小さな満足と
皆が仕事をしている中自分だけ休んでいるという愉悦を感じていた


「ミヤギくん元気だっちゃかなぁ・・・」


空を見上げて風を感じながら今はいない恋人を想う
ミヤギは長期任務に就いていていつ帰ってこれるか分からないような状態だった
もう何度心の中でこの言葉を呟いただろう


「寂しいっちゃよ・・・」


誰にも言わない
誰にも言えない
本当の気持ちが溢れ出した
言葉にしてしまったら寂しさがより強く感じられて膝を抱えてうつむく

ふいに誰かがトットリの頭をぐわしとつかみ驚いて顔を上げた
にかっと笑いながら手を離したのはさっき報告書を提出した総帥のシンタロー


「ったく、こんなとこにいたのかよ。トットリ」

「シンタロー・・・どげんかしたんだぁらか?」

「今日おめぇ誕生日だろ?」


ほら、と渡されたのは赤いスカーフを首につけた青い犬のぬいぐるみ
布地がとても柔らかくて高級なものだと容易に分かった


「僕もう27だっちゃよ?」

「コタローに買ってきたついでだったからよ、悪りぃな」


いい年のしかも男相手にぬいぐるみを渡すことがおかしくてつい笑ってしまったが
自分の誕生日をわざわざ祝ってくれたシンタローの優しさが伝わってくる


「ありがとだっちゃわいや、シンタロー」

「あぁ」


すると後ろから地を這うようなアラシヤマの声が聞こえてくる
たぶん今までずっといたのだろうがまるで気配を感じなかった
いや、無視していた。といった方が正しい


「シンタローはんにプレゼントもらってはるぅぅ・・・忍者はんにはミヤギはんがおるのんと違うんどすかぁぁぁぁ」

「バカ言ってねぇで行くぞ」

「わてもシンタローはんのぬいぐるみが欲しいどすv」


ためなし眼魔砲を打ち込み赤い総帥服翻して、またなと立ち去るシンタロー
とハートを飛ばしながら追っていくアラシヤマを笑顔で見送った


また1人になり少しの間だけ忘れることができていた寂しさがまた溢れ出してしまい
思わずぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた
今日が誕生日だということを自分はすっかり忘れていたが、ミヤギは覚えてくれているだろうか?


来年はちゃんとお祝いするべ


と去年笑顔で言ってくれたあの言葉は?

(忙しくて覚えてるはずないっちゃね)

自分のわがままさにトットリは苦笑した
任務がどれだけ大変なのか分かっている
帰ってこれない辛さも、寂しさも知っている




「やっと見つけだべ」



はぁはぁと息を切らして屋上に現れたのはミヤギだった



「間に合わなくなりそうで急いで作ったがらちょっと形悪いげんと・・・誕生日おめでとう。トットリ」



抱えられていて形がよくわからなかったものがトットリに差し出される
それはミヤギの髪のような黄色い生地で作られた猫のぬいぐるみ
ミヤギが言ったとおり確かにちょっと左に傾いている


「お・・・覚えててくれたっちゃか?」
「当たり前だべ!」



ぬいぐるみを受け取ろうとしたときふとミヤギの手が目に入った



「ミヤギくんその指・・・」



帰りの飛行船の中で一生懸命作ってくれたのだろう、指には何枚もの絆創膏が貼 られていて
かなり痛々しい状態になっている



「オラ普段こういうごどすねがら」



照れたように恥ずかしそうにミヤギが笑う
手をそっと包んで



「ありがとう」



トットリは囁いた
ありったけの思いを込めて
涙がこぼれてしまわないように
少しだけ俯いて



「オラが任務でいないときはそれをオラだと思えばいいべ?」

「じゃあミヤギくんもこれを僕だと思って欲しいっちゃ」



シンタローにもらったぬいぐるみを渡すとどうしたんだと問われる



「トットリそっくりだべ!」

「もらいものだっちゃわいや」

「じゃあ・・・オラたちが一緒にいるときはこいつらも並べておくべ」



猫を犬の肩にもたれ掛かるように座らせ、その後ろに自分たちも腰を下ろすとミヤギが突然あくびをした



「あんま寝てないがら少し肩借りるだ」



頭が預けられてすぐに小さな寝息が聞こえる

その姿はぬいぐるみのたちようで嬉しかった





目を閉じると


風の音が聞こえるくらい


静かになる


でも


それはさっきとは


まったく違う


満ち足りた風










++++++++後書き++++++++
HappyBirthDayトットリ!!
つか誕生日にぬいぐるみって・・・
今時小学生でも喜びませんよねι




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